社会課題への取り組みを成長につなげる戦略的アプローチ
Illustration by Paul Reid
サマリー:従来のCSR(企業の社会的責任)プログラムは、形式的かつ広報目的の取り組みと見なされがちだった。しかし、戦略的に設計されたインパクトイニシアティブは、複雑化するビジネス環境において、リーダーに具体的なビ... もっと見るジネス成果をもたらす重要な機会を提供する。本稿では、グローバルな課題に取り組みながら強固でレジリエンスの高いビジネスを築いた2社の事例をもとに、その成功要因と組織への応用方法を考察する。 閉じる

インパクトイニシアティブが事業の成長にもたらす効果

 従来のCSR(企業の社会的責任)プログラムは、長い間、後付けの形式的な取り組み、主に広報目的で行われる活動であるかのように思われてきた。だが戦略的なインパクトイニシアティブ(社会的インパクトを目的とした取り組み)は、ますます複雑化するビジネス環境を乗り切ろうとするリーダーに、具体的なビジネス成果をもたらす重要な機会を提供する。

 例を一つ挙げよう。2022年にロシアがウクライナに侵攻した時、フレックスポート.org(サプライチェーンの物流を手掛ける米国企業フレックスポートの社内に、筆者が立ち上げて率いたインパクトチーム)は素早く行動を起こし、フレックスポートの物流ネットワークを動員して、必要不可欠な支援物資を避難民に届けた。

 これは、単なる慈善活動に留まらなかった。

 この支援活動は輸送パートナーとの関係を強化し、複雑な市場の情報を提供し、社会の意識を高めた。フレックスポート.orgは2024年までに、この戦争関連で重量にして2300万ポンド以上の支援物資を届け、同時にビジネス価値も生み出した。具体的に言うと、フレックスポート.orgに関わった取引先は、フレックスポートを解約する可能性が60%低く、フレックスポート.orgの活動によってフレックスポートは、新たに23カ国で事業を展開できるようになった。

 この経験は、今日の企業の社会的・環境的課題への取り組みに対する一般的な見方に異議を突きつけている。多くの企業が社会的・環境的な取り組みから撤退しつつある中、フレックスポートのような最近の成功例は、撤退する企業が機会を逃している可能性があることを示唆する。戦略的に設計されたインパクトイニシアティブ、すなわち現実世界の問題の解決を目的とし、コアな顧客を超えて広がるプログラムは、ビジネスの大きな成長を促進する可能性があるのだ。

 本稿では、フレックスポートと、米国を拠点とするクラウドコミュニケーション会社トゥイリオの2社が、グローバルな問題に取り組みつつ、強固でレジリエンスの高いビジネスをいかに生み出したのか、またリーダーがどうすれば自身の組織に応用できるのかについて述べる。

今日のビジネスにとってのインパクトを再考する

 CSRの取り組みはコストセンターになりやすく(企業収益の2%以上を消費することもよくある)、企業の中核的能力を活かせていなかったり、持続的な成果を生み出せなかったりすることが多い。それが重大なジレンマを生んでいる。民間企業は、グローバルな重要問題の解決に貢献できる特別な立場にある(世界のGDPの70%以上を民間部門が占める)。だがその一方で、収益性という強いプレッシャーにさらされている。景気が低迷すると、従来のCSRのアプローチは最初に削減の対象になることも多い。

 大半のCSRプログラムは中核的なビジネス活動から切り離され、コンプライアンスやリスクマネジメントという主に内向きの問題に焦点を合わせている。このような横のつながりのないアプローチでは、インパクトの可能性が制限されるうえ、ビジネスそのものを強化する機会も逃すことになる。

 従来のアプローチの反例として、フレックスポート.orgの事例を考えてみよう。フレックスポート.orgは、自社のグローバルな物流や通関業務の専門能力が人道支援に変革をもたらす可能性に気づいた。複雑な税関規則に四苦八苦する支援団体を手助けすることによって、フレックスポート.orgは支援物資をより迅速に届け、同時に自社の取引先にとっても利益となる専門能力を高めた。この統合的なアプローチを通して、単純なCSRの取り組みで終わっていたかもしれないプログラムは、世界規模でのメリットとビジネス価値の両方を力強く推進するプログラムへと転換し、経済的プレッシャーに耐えられる大規模で効果的なモデルを生み出したのである。