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商品ライフサイクル論の終焉
1965年、現在はハーバード・ビジネススクール名誉教授のセオドア・レビットは『ハーバード・ビジネス・レビュー』に寄稿した論文のなかで、「商品ライフサイクル」という概念をマーケターたちに紹介し、「競争優位を獲得する手段」としてその活用法を提示した。
今日でも、この概念はマーケティング・ポジショニング戦略の中心に位置づけられている。すなわち、商品はベル・カーブ(釣り鐘状の曲線)を描き、上市、成長、成熟、衰退へと、体系的に推移するというのである。これは、便利なマーケティング・ツールとしていまなお活用されている。
このモデルは過去40年間においては有効だった。しかし、マーケターの視野を狭めるものでもあった。
まず、大半のマーケターが、ヒット商品のたどる道をえてして画一的に考えがちである。必ずベル・カーブを描くと考えてしまうのだ。さらに、商品ライフサイクルについても同じように理解している。その結果、ライフサイクルの各段階を通じて、どの企業も商品やサービスについて同様のポジショニングを採用する傾向が見られる。
この視野狭窄症のせいで、商品が成熟度を増すにつれて、その価値を高めなければならず、必然的に過当競争が起こる。このように、商品をたえず差別化あるいは活性化を図る、終わりのない闘いのなかで、通常、マーケターは商品の新たなメリットを陳腐化したメリットの上に塗り重ねていく。
たとえば、かつて歯磨きのメーカーは、市場競争において、「息をさわやかにする」「虫歯を予防する」など、二、三の要因を考慮に入れれば事足りた。それが今日では、「歯周病予防」「歯の美白」から「歯石の除去」に至るまで、かつてないほどさまざまな属性を消費者に提供せざるをえない。
ひとたび商品価値を高めると、時の経過と共に、それが当たり前のこととして期待されるようになり、競争力を維持するために、さらなる商品価値を創造しなければならない。実際、ノー・ブランドの歯磨き粉でさえ、いまや歯石の除去をうたっている。
このようなイタチごっこの競争に勝利するのは、まったく至難の業といえよう。マーケターは、本能的に古い商品ライフサイクルのパラダイムを信奉するがゆえに、商品を必要以上に成熟あるいは衰退の段階へと推し進めようとする。