ボランティア依存型デジタルプラットフォームの収益化をいかに実現するか
HBR Staff; mtrommer/ imagenavi/Getty Images; Claudio Schwarz/Unsplash
サマリー:ボランティアに支えられたデジタルプラットフォームは、成長と収益化の過程でしばしば困難に直面する。インターネット掲示板のレディットや、インターネットメディアのハフィントン・ポストは、無償の貢献に依存した... もっと見る初期モデルからの転換に失敗し、ユーザーコミュニティとの対立を招いた。一方で、ギットラボはガバナンスや参加設計を通じて円滑な移行を実現している。本稿では、こうした事例から得られる3つの教訓を洗い出し、持続可能な商業化のあり方を探る。 閉じる

ボランティアの貢献によって成立するプラットフォーム

 多くのデジタルプラットフォームは、コンテンツクリエイター、モデレーター、コミュニティ開発者といったボランティアの貢献によって成り立っている。しかし、プラットフォームが拡大し収益化戦略を導入するようになると、こうしたコミュニティを疎外する危険性がある。

 2023年にインターネット掲示板のレディットがアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)の価格を変更した際、これは一見すると通常のビジネス上の決定に見えたが、ボランティア・モデレーターによる大規模なボイコットを引き起こし、プラットフォームの機能が著しく妨げられる事態となった。その10年前には、自分たちが搾取されていると感じていたハフィントン・ポストの無給の寄稿者たちが、AOLによる3億1500万ドルでの買収をきっかけにストライキを行い、訴訟を起こしていた。

 これらの事例は、繰り返し浮上する課題を浮き彫りにしている。すなわち、プラットフォームが価値の源泉となっているボランティア主導の仕組みを損なうことなく、いかにして商業化を進めるかという課題である。

 本稿は、筆者らの継続的な調査に基づき、こうした課題につまずいた企業から得られる教訓と、それらを適切に乗り越えた組織から得られる洞察を提示する。

変容するプラットフォーム・コミュニティの性質

 プラットフォームの成長におけるボランティアの役割は、従来、熱心なユーザーが無償でサービスの拡大を担うという単純なものとして理解されてきた。ハフィントン・ポストは、無償のライターによって初期の成功を築いた。

 語学学習プラットフォームのデュオリンゴは、は、ユーザーコミュニティによって作成されたコースを通じて言語の種類を拡大した。無償のモデレーターの協力によりコミュニティを成長させた。動画配信サービスの「Viki」(現在は楽天の傘下にある)は、ボランティアの翻訳者が160以上の言語に対応する字幕を作成することで、世界中の視聴者にコンテンツを届けた。

 しかし、これらのプラットフォームの歴史を分析すると、より複雑な構造が浮かび上がる。ボランティア・コミュニティは、既存機能の拡張に留まらず、プラットフォームの運営や価値創出の構造そのものを根本的に形成している。

 デュオリンゴのコース開発者は、特定の言語に固有のニュアンスに対応するために、個別に最適化された教育手法を用いた独自のコースを開発している。レディットのモデレーターは、現在のプラットフォーム運営のあり方を根本的に規定するガバナンス体制を確立した。当初は単なる貢献として始まった取り組みが、しばしば共創へと発展する。

収益化の転換点

 こうした進化は、収益化の段階で最も顕著かつ困難なものとして現れる。ハフィントン・ポストがAOLに買収された際に生じた危機は、単なる報酬の問題ではなかった。プラットフォームは、ボランティア寄稿者がその価値提案をいかに徹底的に形成してきたかを認識していなかった。寄稿者の懸念を軽視するような創業者の態度は、ストライキや訴訟を引き起こし、長期的な評判の毀損につながった。

 エンジニア向けQ&Aサイトのスタック・オーバーフローも、オープンAIとの提携を発表した際に、同様の問題に直面した。プラットフォームは、ボランティアが自身の貢献を単なる回答とは見なさず、特定の見解に基づき慎重に構築された知識として捉えていたことに気づいた。コミュニティのメンバーは、オープンAIとの提携発表に対して非常に否定的な反応を示した。意図的なコンテンツ削除というコミュニティの反応は、コミュニティの貢献に対するプラットフォーム側とボランティア側の見解の隔たりを浮き彫りにした。

 ボランティアに依存するプラットフォームが、事業拡大や収益化に際してトラブルに陥った事例からは、3つの教訓を引き出すことができる。

1. 業務運営のあらゆる要素がボランティアを前提として構築されていることを深く理解する必要がある

 スタック・オーバーフローのボランティアが、AIの学習データとしてみずからの投稿が使用されることに反対した際、問題はコンテンツの権利にとどまらなかった。ボランティアによって構築されたシステムは、すでにプラットフォームのインフラの中核を成していたのである。そのため、知識検証アーキテクチャ(知識資産の獲得、表現、保存、整理の方法)、ピアレビューシステム、品質管理体制はいずれも、容易に再構成できるような機能ではなかった。

 プラットフォームのリーダーは、スタック・オーバーフローと同様の過ちを避けるために、まず次の問いに答える必要がある。ボランティアが構築したシステムに依存する主要機能はどれか。ボランティアが作成したツールが、どこで不可欠なインフラとなっているのか。特に重要なのは、特定のコミュニティ目的から生まれ、商業的な目標と衝突する可能性のあるシステムはどれか、という点である。

 次のステップは、以下の問いに答えることで、移行のための計画を策定することである。移行の設計にボランティアを共同設計者として参加させることは可能か。コミュニティの信頼を維持するために、収益化から除外すべき機能やデジタル資産はあるか。進化するビジネスニーズとボランティアの期待を整合させるには、インセンティブの構造をどのように再構築すべきか。

 こうした情報を把握することにより、プラットフォームのリーダーは摩擦の発生箇所を予測し、緩和策を策定し、商業化の取り組みがプラットフォームの価値を支えるシステムを不安定化させないようにすることが可能となる。

2. ガバナンス構造は早期に確立しなければならない

 ハフィントン・ポストのケースは、プラットフォームが収益化に向けて大きな一歩を踏み出した後にボランティアとの関係を見直そうとしても、重大な失敗を招きかねないことを示している。こうした事態を避けるには、商業的な圧力によって性急な決断を迫られる前に、早期にガバナンスの枠組みを構築しておく必要がある。この枠組みは、ボランティアが構築したシステムの進化の方向性に加え、コミュニティのインフラに影響を与える変更がどのように評価され、実施されるかについても定めておく必要がある。

 ウィキメディア財団の有料APIサービスであるウィキメディア・エンタプライズは、こうした積極的なアプローチの好例である。ウィキメディア財団は、ウィキメディア・エンタプライズのプロダクト開発の初期段階から、ボランティア・コミュニティを含むステークホルダーを参画させた。寄稿者が商業化や資源配分といった問題に懸念を表明した際、財団は開かれたコミュニケーションによって対応し、それによってコミュニティの信頼を維持した。

3. 移行を成功させるには、ボランティアのニーズと商業的目標のニーズのバランスを取るメカニズムが必要である

 ギットラボ(GitLab)は、開発者がコードを共同で記述・テスト・デプロイできるソフトウェア・プラットフォームであり、ソフトウェア開発ライフサイクルのすべての段階を一つのツールに統合している。企業がボランティア・コミュニティを疎外することなくプラットフォームをスケールして収益化に成功した珍しい例といえるだろう。

 ギットラボは当初から、有給の従業員と多数のボランティア開発者の両者を基盤とし、オープンソース・ソフトウェアの構築と改良を進めてきた。同社の上場企業への移行を成功に導いた要因は、ボランティアを消耗的な補助者としてではなく、持続的な共創パートナーとして位置づけた点にあった。

 ギットラボは、有料の法人向けエンタープライズ版を導入し、ベンチャーキャピタルからの資金調達や後の新規株式公開(IPO)を進める過程においても、閉鎖的な商業モデルに転換することはなかった。むしろ、中核となるオープンソース・プロジェクトを維持し、包摂的な体制を保ち続けた。また、フリーミアムモデルを維持し、コアプラットフォームを開かれた機能的な形で提供し続けることで、ボランティアが有意義に使用し、貢献し続けることが可能となった。

 また、ギットラボは公開ロードマップやアップデートを通じて、収益化計画に関する透明性を確保し、反発を未然に防ぎつつ、コミュニティとの信頼関係を強化した。加えて、貢献者への公的な認知、定期的なハッカソンの開催、参加支援のためのコーチング資源の提供といった形で、コミュニティに対する継続的な支援を示すインフラにも投資した。

 ボランティアは金銭的報酬を受け取っていなかったが、ステータスや可視性、影響力といった、彼らの内発的動機や職業的ニーズに適合する報酬を得ていた。実際、多くのボランティアは自身の所属組織においてギットラボを使用しており、プラットフォームの改善は彼らの業務にも直接的な利益をもたらした。

 ギットラボは、オープンな参加の継続、ボランティアの貢献の評価、そしてコミュニティの活動を排除するのではなく補完する形での収益化設計を通じて、意図的な設計と持続的な運営により、商業的成長とボランティア・エコシステムの相互補強が可能であることを実証した。

今後の展望

 AIの統合、自動化システムの導入、商業化圧力の高まりといった前例のない課題に直面する中で、多くのプラットフォームは、ボランティア・コミュニティを乗り越えるべき障害として捉えがちである。むしろ、ボランティアと積極的に関与し、その意見を真摯に受け止めるべきである。

 成功するのは、リーダーがプラットフォームの目的に対するボランティアの深い理解を活用し、ビジネスが進化する中でもプラットフォームの価値を高めたミッションに忠実であり続けるプラットフォームである。


"How to Monetize Volunteer-Driven Platforms," HBR.org, April 16, 2025.