自分の仕事にしか関心がない「タコ壺化した職場」を変える方法
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サマリー:職場のコミュニケーションの希薄化や成果主義の導入により、個人が自分の仕事だけに閉じこもる「心理的タコ壺化」が進行し、組織の結束力や生産性に悪影響を及ぼしている。本稿では、筆者らがある企業で実施した「チ... もっと見るーム・ダイアログ」に関する実証研究をもとに、心理的安全性を高め、組織革新を促す要因を明らかにするとともに、タコ壺化した組織を活性化させるためにマネジャーが取るべき具体策を解説する。 閉じる

職場のコミュニケーションの希薄化がもたらす「心理的タコ壺化」

 1980年代後半、日本が世界第2位の経済大国へと成長した時期には、組織への強いコミットメントと一体感を基盤に、職場の濃密なコミュニケーションが企業の競争力を支えていた。時に煩わしく感じられることもあったが、職場の結束力やチームワークを高めていくうえで、重要な役割を果たしてきたといえる。

 しかし、1990年代に入り、バブル経済の崩壊に端を発する長期的な経済低迷の中で、職場のコミュニケーションは変化した。かつては一般的だった社員旅行や運動会はほとんど姿を消し、忘年会や新年会、歓迎会などの社内行事も減少傾向にある。さらに、コロナ禍を契機に、オンラインコミュニケーションが急速に社会に浸透し、職場で直接顔を合わせて話をする機会は大きく減少した。

 こうした状況は、働く人々の心構えに重要な変化をもたらしている。配属が決まって働き始める時、多くの人が「自分に与えられた役割と責任を果たそう」と素朴に思うものだろう。ところが、職場のコミュニケーションが希薄化する中で、「チームの一員としての責任」は次第に「自分の役割と責任を果たせばそれでよい」という発想に変容してくる。自分の職務を捉える視野が狭くなり、まるで自分の役割と職責を「タコ壺」のような空間と捉え、その中に閉じこもる心理状態に陥ってしまうのだ。

心理的タコ壺化を強めたもう一つの理由

 バブル経済の崩壊後の企業の組織改革では、社員一人ひとりの業績を評価し、その優劣によって給与の増減や雇用の継続可否を判断する成果主義的なシステムが導入された。個人が達成した業績の優劣に応じて給与等の待遇に優劣の差をつける仕組みは、公平さを重視する視点に立てば、理にかなったものではあった。しかし、終身雇用と年功序列を基軸とする雇用制度に慣れ親しんでいた日本人にとって、強い違和感を抱かせるものだった。自己犠牲を払ってでも会社に尽くしていれば、昇進し給与も上がる仕組みから、個人の成果が評価されなければ処遇が悪化する可能性のある仕組みに変わったのである。この変化は、働く人々の意識に大きな変化をもたらした。

 同僚や先輩・後輩の指導や支援に尽力しても、自分自身の業績は上がらず、会社から成果として評価されないのであれば、そこに割く時間や労力が無駄になってしまう。職場での円満な人間関係づくりよりも、自分の成果を上げることが優先され、自分を高く評価してくれる企業が他にあれば、ためらわず転職することが一般的になってきた。

 成果主義的な仕組みの導入は、働く人々の心理的なタコ壺化傾向を促進する大きな要因になっている。こうした状態に陥ると、同僚や後輩を指導・支援したり、先輩や上司に相談したりして密な情報共有を行う価値が軽視されがちになり、チームワークは阻害され、組織全体の生産性や効率性の低下につながる。すなわち、働く人々の心理的タコ壺化は、組織の競争力や持続可能性を損なうリスクをはらんでいるのだ。では、働く人々がこうした心理的タコ壺状態から脱し、職場のコミュニケーションを活性化し、チームワークを再構築するためには、どのような具体的な方策が考えられるだろうか。

タコ壺脱却に向けた具体的な取り組み

 職場のコミュニケーションやチームワークを活性化するための方策については、これまでにも多様なアイデアが提示され、実践されてきた。ここでは、効果的な取り組みのポイントがどこにあるのかについて、客観的なデータに基づいて考察したい。筆者らは、実際の企業組織を対象に6カ月間にわたって「チーム・ダイアログ」の取り組みを実施し、その前後で社会心理学的指標の測定を行った。ここでは、その効果を具体的に検討した実証研究の報告(山口・縄田・池田・青島, 2019)を紹介する。