部下をほめるなら、いつが最も効果的か
Illustration by Leandro Alzate
サマリー:上司のポジティブな感情表現は部下のパフォーマンス向上に寄与するが、筆者らの研究により、特にそのタイミングが重要であることがわかった。研究によれば、プロジェクトやシーズンの初期に前向きなフィードバックを... もっと見る与えることで、部下や選手は尊重されていると感じ、成果を挙げる動機づけが高まる。本稿では、リーダーの感情表現のタイミングが部下の成果に与える影響について、2つの実証研究をもとに解説する。 閉じる

上司による早期のポジティブなコメントが部下の成果につながる

『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』は、アップルの動画配信サービス「アップルTV+」の人気ドラマだ。英国のプロサッカーチームの監督に就任したテッド・ラッソは、どんな時も絶対にポジティブ。その気づかいと優しさが、寄せ集めのチームを新たな高みへと押し上げる。現実の世界でも、ラッソ式のリーダーシップが有効であることは、研究によって示されている。チームメンバーから優れた成果を引き出したいなら、リーダーは頻繁にポジティブな姿勢を示すべきなのだ。だが、そのような一般論は職場の現実には必ずしも当てはまらない、と異論を唱えるリーダーもいるだろう。場合によっては、ネガティブなフィードバックのほうが部下の成果アップにつながることがあり、ポジティブな励ましのほうが効果が大きいとは限らないというのだ。

 筆者らは、『オーガニゼーション・サイエンス』誌(ウェブサイト)に2024年11月に掲載された新しい研究で、リーダーのポジティブまたはネガティブなコメントのタイミングが、部下の成果に与える影響を調べた。その結果、上司のポジティブなコメントは、部下のパフォーマンスを向上させるが、そのタイミングが重要であることがわかった。

早い段階での「励まし」のインパクト

 第1の研究で、筆者らは、大手プロフェッショナルサービス企業のコンサルタント9968人の1年8カ月分のデータを分析した。彼らが上司から受け取る書面によるフィードバック(約25万件のコメント)を集めて、リーダーがポジティブな感情とネガティブな感情をどの程度表現したかをソフトウェアを使って調べた。

 ここでいうポジティブな感情の例としては、「(君は)素晴らしい仕事仲間だ」とか「一緒に働けて嬉しかった。将来、私のチームに迎えたい」といったコメントがあるだろう。一方、ネガティブなコメントとしては、「懸念」とか「がっかりした」といった言葉が含まれる表現、そして「とても」が繰り返し使われる表現(「とても、とても先は長い」)などがある。これらはフィードバックをする人物のフラストレーションを示唆する表現だ。

 このコンサルティング会社では、1年を初期、中期、後期の3期に分けている。そして、コンサルタントはプロジェクトのいずれかの部分が終わるごとに、フィードバックを受け取る。したがって、プロジェクトチームの存続期間を通じて、関連するデータをたっぷり集めることができた。また、各コンサルタントの成果(正式なパフォーマンスレビューに書かれているもの)も追跡できた。こうした正式なパフォーマンスレビューは、対象コンサルタントの成果について上司に質問をするとともに、引き続き仕事をしたいかという設問もあった。対象のコンサルタントが昇給ないしはボーナス支給に値するかどうかについても、上司は意見を求められた。

 その結果、リーダーが早い段階でポジティブな反応を示すことは、他のどのような表現(たとえば、中期または後期にポジティブなコメントをする、あるいは最初にネガティブなことを言う)よりも、1年を通じて部下のパフォーマンスを高めた。過去のパフォーマンスや勤続年数といった要因で調整しても、同じ結果が得られた。

 上司の初期のポジティブな感情表現が、部下のパフォーマンスにこれほど大きな影響を与えた理由を調べるために、第2の研究では、全米大学体育協会(NCAA)のディビジョン1に属する20チームの学生アスリート245人とコーチ86人を1シーズンにわたり追跡した。そしてシーズン中の複数の時期にアンケート調査を行い、選手がコーチ陣からどのくらいポジティブまたはネガティブな感情表現を受けたか、そしてそれが選手の自己価値観やパフォーマンス(コーチ陣の評価によって測定)とどのように関連しているかを調べた。