リーダーの振る舞いが組織の「規範」を変える
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サマリー:職場には、明文化されたルールや制度だけでなく、日常の中で自然に浸透していく「規範」が存在する。たとえば、休暇取得の扱いや会議の始め方など、表には見えにくいが、働き方や人間関係に大きな影響を与えるこれら... もっと見るの規範は、組織文化そのものを映し出している。本稿では、組織における「規範」を意図的に形成・変革し、公正な職場づくりを推進するアプローチとして、「規範起業家」という考え方を紹介する。 閉じる

「規範起業家」が組織文化を形成する

 新しい仕事を始めた時のことを思い出してほしい。おそらく休暇などに関する規則や正式なプロセスについて教わったことだろう。しかし、たとえば、自分から昇進を求めるべきか声がかかるのを待つべきか、同僚がどれくらいの早さでメールを返信してほしいと期待しているのか、あるいは会議が定時に始まるのか数分遅れて始まるのか、といったことは、従業員マニュアルには書かれていない。

 規範は個人と集団の両方の行動を形成し、組織文化や「ここでのやり方」を象徴する。従業員は、周囲の人々の行動を観察し、どのような行動が容認されるのか(たとえば、「公の場で同僚に反論するのは許されるか」など)を推測しながら、徐々にそうした規範を身につけていく。従業員にとっての曖昧さを取り除くには、規範を意図的に定め、集団としてそれを重視することが重要である。それは、従業員が職場で指針を必要とする不確実で混乱した時代において、リーダーにとっては特に重要となる。

 すべての従業員が成功できる公平な土俵で、支援が平等に提供され、報酬が正当に分配されるという、公正という基本的な規範を育成することで、好循環が生まれる。公正が公正を生み、従業員は高い生産性と企業への強いコミットメントでそれに応える。公正はそれ自体を強化しながら成長する規範である。その逆もまたしかりであり、不公正は悪循環を生み出す。だからこそ、リーダーが公正という規範を醸成することが極めて重要である。

 それには、あなたが公正のための「規範起業家」(norm entrepreneur)として行動し、従業員も同様に行動できる環境を整えることが求められる。「規範起業家」とは、法学者キャス・サンスティーンが提唱した概念で、人々が何を普通と考え、受け入れ、期待するかを形づくる存在である。

 規範起業家精神は、リーダーにとって非常に強力な手段である。なぜなら、場合によっては、規範は正式な方針や手続きよりも行動に強い影響を及ぼすからである。たとえば、無制限の休暇制度が存在していても、長期休暇を取ることが好ましくないとされている職場では、従業員は実際にそれを活用しようとはしないだろう。同様に、「自由に意見を述べる文化」を掲げている組織でも、懸念を表明した同僚が疎外されたり信用を失ったり、処罰されたりしているのを見れば、その文化は機能しない。真に公正で高い成果を挙げる職場を築くためには、「何を普通と認めるか」を意識的に定義し、実践していかなければならないのである。

 以下に、すべての人が活躍できる公平な環境を構築するために、リーダーが職場の規範に影響を与え、従業員に規範起業家として行動させる3つの方法を紹介する。

「ここでのやり方」という認識を変える

 人は、周囲の人々の考えや行動を必ずしも正確に把握しておらず、その結果、何が許容され、何が望ましいのか、すなわちある状況における社会規範について誤った認識を持ってしまう。たとえば、最近の調査によれば、米国人の大多数は多様性と包摂の取り組みに賛成しているが、周囲の人々の支持の度合いを実際よりも低く評価する傾向が見られた。