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ブランド認知の複雑な状況
マーケターにとって、「バイラルする」ことが重要な評価基準だったのは、さほど遠い昔ではない。バイラルなキャンペーンとは、前例のないリーチとエンゲージメント、そしてブランド認知度を生み出すことを意味した。たとえば、オーストラリアの鉄道会社メトロ・トレインズ・メルボルンが2012年に打ち出した「ダム・ウェイズ・トゥ・ダイ」キャンペーンは、おかしくて、キャッチーで、数え切れないほど多くのリメークとパロディとダウンロードをもたらし、史上最も愛された公共交通機関の安全キャンペーンの一つとなった。
だが、今日では、論争や怒り、偽情報、不快感を引き起こすなど、悪い理由でバイラルすることも多い。イタリアの高級ファッションブランド「ドルチェ&ガッバーナ」(DG)の、「DGは中国が大好き」キャンペーンを考えてみよう。たしかにその動画は多くの人に視聴されたが、世界中から猛批判を浴び、中国市場で推定4億ドルの売上げを失い、ブランドイメージに長期にわたるダメージを与えた。D&Gは例外的な存在ではまったくない。SNS管理ツール「フートスイート」(Hootsuite)の2023年のリポートによると、ソーシャルメディアプラットフォームに存在するコンテンツの多くが、ネガティブだったり、二極化を招くものだったりして、「バイラル」と認められるものは5%にすぎなかった。この非常にセンシティブな情勢に、ブランドのリーダーが検討すべき極めて重要な問いは、「いまだにバイラルを目指すべきなのか」だ。
実際には、バイラルになることのパワーは失われておらず、いまも重要であるのは間違いない。アルゴリズムやオーディエンスの反応に変化はあっても、バイラルすることはブランド想起と消費者エンゲージメントを大きく牽引することがわかっており、大きな話題になるコンテンツは、ブランドにとって依然としてパワフルなツールだ。
そこで筆者は、ブランドがバイラルをめぐる複雑な状況を乗り切るのを助けるフレームワーク「SPREAD」を開発した。これは社会科学の研究に基づくもので、長年筆者がブランドマーケターなど意思決定者向けのエグゼクティブ教育課程を担当してきた経験から洗練させてきたものだ。SPREADを使えば、チームはコンテンツをリリースする前に、そのバイラルを批判的に分析し、評価し、最適化することで、より大きなインパクトを与えるとともに、より安全に共有することができる。
本稿では、SPREADの6つの側面を紹介しよう。
社会的に有用で思いやりがある
現在成功するキャンペーンは、楽しませる以上のことをしていることが多い。オーディエンスが有意義な言動を行うのを助けるのだ。たとえば、言語学習アプリの「デュオリンゴ」は、2024年に人気マスコットのフクロウを使って、言語の平等を擁護した。具体的には、動画共有アプリ「ティックトック」を使って、多言語リテラシープログラムを展開した結果、ユーザー生成動画の合計視聴回数は8億を超え、全世界でアプリのダウンロード数は前年比54%増を達成した。
一方、スキンケアブランド「ダブ」の「美しさの代償」(Cost of Beauty)は、SNSがメンタルヘルスに与える影響に焦点を当てたキャンペーンだ。メンタルヘルス支援機関と協力して、米国で66億回以上のインプレッションを獲得し、売上げは5.5%増えた。このキャンペーンは、極めてパーソナルな広がりを見せた。オーディエンスはコンテンツを共有することで、共感やボディポジティブ(自分のありのままの容姿を肯定する姿勢)への賛同、そしてメンタルヘルスの重要性への支持を示すことができ、自分の価値観を強化しつつ、他者を助けることができた。アイデンティティの表現と社会貢献の融合が、この広告が強力なリーチを実現した理由の一つだろう。社会的な有用性と感受性が一体になって、共有を促したわけだ。