生成AIは生産性を高めるが、モチベーションを低下させる
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サマリー:生成AIは業務の質と効率を高める一方で、その後にAIの支援なしで行うタスクにおいては内発的動機づけを低下させ、退屈感を増幅させる可能性がある。つまり、生成AIとの協働が従業員のモチベーションやエンゲージメン... もっと見るトに悪影響を及ぼしかねないのだ。本稿では、筆者らの研究をもとに、AIの利点を活かしつつ、従業員のやる気を維持するための5つの実践的戦略を提案する。 閉じる

生成AIが従業員の退屈感を増大させる

 生成AIは職場に革命をもたらし、質の高い仕事を短時間で生み出せるようになった。人事評価シートの作成であれ、アイデアのブレインストーミング、営業メールの作成であれ、生成AIと協働することにより、効率的で、多くの場合、品質的にも優れた結果を得ることができる。

 しかし、筆者らの研究では、隠れたトレードオフが明らかになった。すなわち、生成AIとの協働は、タスクのパフォーマンスを瞬時に向上させる一方で、従業員が生成AIの支援がないタスクに向かう際には、内発的動機づけを低下させ、退屈感を増大させる場合がある。これは、生成AIを活用したいが、従業員の他の仕事への意欲を損ないたくない企業には大きな問題である。

調査概要

 筆者らは、3500人以上を対象とした4つの研究において、人間と生成AIが業務タスクで協働した場合に何が起こるかを調査した。被験者は、フェイスブックの投稿、ブレインストーミング、メールの作成など、現実世界の専門的なタスクを、AIと一緒に、またはAIなしで実施した。これらタスクのパフォーマンスと、被験者のコントロール感、内発的動機づけ、退屈レベルなど被験者の心理的経験の両方を評価した。

 その結果、人間と生成AIとの共同作業には2つの対照的な結果が見られた。

・パフォーマンスの即時的な向上:生成AIはタスクの質と効率を高めた。たとえば、生成AIを使って書かれた人事評価シートは、支援なしで書かれたものに比べて、有意に長く、分析的で、協力的な口調であった。同様に、生成AIを使用して作成されたメールは、AIの支援を受けずに作成されたものに比べて、励ましや共感、関係構築の表現が多く含まれ、温かく、人間味のある言葉が使用される傾向があった。これは、生成AIが、洗練され、魅力的で構造化されたアウトプットを提供できることを示している。

・心理的コスト:パフォーマンス上の利点とは反対に、あるタスクで生成AIと協働し、その後、AIによる支援なしの別のタスクに移行した被験者は、一貫して内発的動機づけが低下し、退屈を感じたと回答した。研究全体では、内発的動機づけは平均して11%低下し、退屈感は平均して20%増加した。これとは対照的に、最初から生成AIなしで仕事をした被験者は、比較的安定した心理状態を維持していた。この結果は、生成AIとの共同作業の利点には見逃せない影響があることを明らかにしている。つまり、生成AIツールを使うことにより、最初のうちは生産的でやる気も感じるが、AIのサポートがないタスクに移行したとたんに、意欲が低下してしまう可能性がある。そしてこのようなワークフローは、AIの支援を受けられない、または受けるべきではないタスクが存在する現状では、ごく日常的なものである。

なぜモチベーションが下がり、退屈感が増すのか

 生成AIとの協働により、タスクの中で最も認知的負荷が大きく、刺激や個人的な充実感を得られやすい部分が奪われてしまう可能性がある。たとえば、人事評価シートの作成には、クリティカルシンキングや個人に合わせたフィードバックが必要だ。生成AIがこのような内容の多くを生成すると、作業に魅力を感じられなくなり、タスクへの思い入れが薄れやすくなる。単独作業に戻った時にこの差が明確になり、退屈とモチベーションの低下につながるのだ。

 筆者らの研究では、生成AIとの協働により、まず被験者のコントロール感、つまり自分が仕事の主体であるという感覚が低下した。コントロール感は内発的動機づけの重要な要素である。人は、アウトプットに関する完全な主導権を握っていないと感じると、タスクへの思い入れを失いやすい。単独作業に戻ると、コントロール感は回復するが、楽しさは低下した。基本的に、自主性を取り戻すが、刺激ややりがいを感じなくなったのである。

 以上の結果は、仕事の未来に重要な示唆を与えるものである。生成AIは、企業の短期的な業績の向上に役立つが、使いすぎれば、従業員の心理的な健康や幸福に長期的な影響を及ぼす可能性がある。従業員が創造性や認知能力を駆使すべき仕事でAIを頼り続けた場合、まさにエンゲージメント、成長、満足をもたらす仕事の側面が失われる危険性がある。