チャットGPTは「ネットワーク効果」で市場を支配できるか
HBR Staff
サマリー:チャットGPTの急成長を受け、生成AI市場における競争優位のカギとして「ネットワーク効果」が改めて注目されている。チャットGPTは製品としての完成度、巧みなマーケティング、ブランド力によって短期間で広く普及し... もっと見るた一方で、こうした要因だけでは、グーグルやメタ・プラットフォームズなどの巨大テック企業や、他のオープンソースの対抗勢力に対して長期的な優位を築くことは難しい。本稿では、チャットGPTが将来的に市場を支配する可能性を、「データネットワーク効果」と「クロスサイドネットワーク効果」の2つの視点から論じる。 閉じる

チャットGPTのネットワーク効果はどの程度強力なのか

 チャットGPTの昨今の急速な成長により、「ネットワーク効果が作用し始めている」と信じる人々が出てきている。

 ユーザーが増えるにつれて、より多くのデータが蓄積され、それによってよりよい製品を生み出すことができる(グーグル検索を支えているデータネットワーク効果に似ているが、この場合それほど強くない)。そして、ユーザーとGPT開発者の間での共有利益も高まりつつある(iPhoneのユーザーとアプリ開発者の間に存在するクロスサイドネットワーク効果に似ているが、やはりこちらもチャットGPTのほうが弱い)。

 ネットワーク効果は、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる生成AI製品の市場において、オープンAIがトップの座を確保するための重要な要素であり、同社の最近の3000億ドルという評価額を正当化する主な根拠でもある。

 いま本当に問われるべきは、チャットGPTが最終的にLLM市場を支配することを示唆するような強力なネットワーク効果を備えているのか、という点である。もしそうでなければ、チャットGPTは似たような機能を持つ数多くの競合サービスの一つにすぎなくなり、現在の高い評価額を正当化するのは困難になるだろう。

 ネットワーク効果を研究し、同分野のビジネスにエンジェル投資を行っている学者としての筆者らの見解では、チャットGPTの「現在の」ネットワーク効果はかなり弱い。

 最近の成長は主に、製品としての優位性、巧みなマーケティング、バイラル性、そして強力なブランドによってもたらされている。これらはAI競争の初期段階においては極めて有用な特性ではあるが、グーグル、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズといった強力な大手テック企業や、ディープシークやラマといったオープンソースの代替モデルとの競争においては、それだけでは不十分である可能性が高い。

 チャットGPTが堅固な市場ポジションを確立するための最も現実的な道は、初期に得た優位を、強いネットワーク効果を活用することで持続的なものとすることである。チャットGPTのデータネットワーク効果は今後もある程度限定されたままである可能性が高いが、クロスサイドネットワーク効果には大きな成長の可能性があると筆者らは見ている。これにより、オープンAIはチャットGPTを、アップルのiOSやアップストアのようなプラットフォームへと進化させることができるかもしれない。

 本稿ではチャットGPTに焦点を当てて議論を進めるが、こうした分析は、ネットワーク効果を通じて初期優位を活かし自社の差別化を図ろうとする他の主要なAI企業(生成AIに限らず)にも幅広く当てはまる。AI主導のネットワーク効果の構造と強度を理解することは、単なる概念的な営みではない。これは、AI企業の長期的な市場防衛力と成長可能性を評価する投資家や、どのAIモデルを基盤として自社のカスタムツールや製品を構築すべきかを判断するビジネスリーダーにとって、極めて実践的な意義を持つ。

 以下では、チャットGPTが現在ネットワーク効果の強化に向けてどのような取り組みを行っているのか、そしてさらにそれを強化するために何が可能かについて説明する。

データネットワーク効果

 フェイスブックやインスタグラムといったSNSとは異なり、チャットGPTのユーザーは他のユーザーの存在から直接的な利益を得るわけではない。ただし、データを通じた間接的な「サイド内ネットワーク効果」(プラットフォームにおいて、同一グループのユーザーが増えることで、そのグループ全体の価値が向上する現象)が存在する。チャットGPTは、より多くのユーザーにサービスを提供することで学習し、すべてのユーザーにとって製品を改善できる。では、この効果は実際どの程度強いのか。