GMはなぜ〈オールズモビル〉を継続してきたのか

 顧客とのリレーションシップを築く際、その生涯価値を向上させることに重点を置くべき──。

 この考え方に同意するマネジャーは多いだろう。ロイヤルティと継続率の向上、関連商品とサービスのクロスセリング、さらに顧客ニーズに応えたサービスの拡充など、いずれも「カスタマー・エクイティ」全般を増大させる方法である[注1]

 実際、新規顧客の獲得コスト──これは既存顧客の維持コストよりはるかに高い──と、開拓可能な購買層が有限であることを考え合わせれば、成熟産業の企業にすれば、それ以外の方法で利益の増大を考えることが急務といえる。

 しかしながら、このような顧客第一主義の長期戦略にいかに賛成しても、その本質から乖離していくマネジャーたちが何と多いことか。

 彼らの話に耳を傾けると、顧客という言葉が何度も繰り返し出てくる。しかし、その行動を見れば、実態が浮かび上がる。つまり、ブランドが最優先なのだ。ブランド・マネジメントを顧客管理に優先させる大企業はいまだ多い。そこに軸足を置いては、ますます成長と両立しなくなってしまう。

 現存するアメリカ最古の自動車ブランド、〈オールズモビル〉の例について考えてみよう。

 1980年代、同ブランドは抜群のブランド・エクイティと多くの顧客に恵まれていた。ところが20世紀も終わりに近づき、オールズ愛好家もいっきに高齢化した。親会社のゼネラルモーターズ(GM)からこのブランドを任されたマネジャーたちは、市場シェアを維持するには、同ブランドを時代遅れと見なすようになった若年層にアピールすればよいと考えた。