P&Gはマス・マーケティングで好業績を実現した

 さて、問題です。〈ホワイトストリップス〉(ホワイトニング用練り歯磨き)、〈クレスト・スピンブラシ〉(電動歯ブラシ)、〈スウィファー〉(使い捨て雑巾)の共通点は何か。

 第1に、いずれもプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の商品であること。第2に、長年停滞していた、しかも死に体とさえいわれたカテゴリーで、10億ドル規模の成功を収めていること。第3に、他社商品よりも何倍もの高値で売られていること。それでいて、同じ効用(歯の黄ばみを白くするなど)を提供する超高額商品よりもかなり安い。

 いずれも他社がうらやむ高収益商品である。P&Gがトップの座から引きずり降ろした、かつての市場リーダーの3~5倍もの利益率を誇る。

 これら3商品について最も興味深い点はほかにある。それは、いずれもターゲットを絞り込んでいないことだ。どの商品も、高収益が見込める顧客層に絞り込んで生まれた商品ではない。それどころか、万人向きであり、これまで別途扱われていたターゲット層でも購入されている。

 つまり、やれCRMだ、やれ個別対応マーケティングなどと、かまびすしい市場状況において、これら3商品は臆面もなくマス・マーケット志向なのである。本稿では、これら3商品は、まだほんの入り口にすぎないことを論じる。

 アメリカでは世帯所得分布の劇的な変化によって、まったく新しいマス・マーケットが突然、意味を帯び始めた。これまではマス・マーケットと高額市場とで成り立っていた市場の境目に膨大な新しいマス・マーケットが登場したのである。多くの企業にとって、この新市場の追求こそ、高収益かつ高成長への最も確実な道である。

 これこそ、まさにP&Gが取り組んだことにほかならない。冒頭の3商品がいずれも同社製であることは偶然ではない。2003年のアナリストとの電話ミーティングで、同社のCEO、A. G. ラフレーは次のように述べている。