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戦略が急速に陳腐化する中、企業はどう動くべきか
あなたの会社が掲げていた2025年のプランは、早くも粉々に砕け散ったのではないだろうか。顧客、テクノロジー、競争を取り巻く状況が不確実であるのはいまに始まったことではないが、貿易戦争、消費者マインドの悪化、インフレ期待の高まり、さらにはドル安圧力の上昇により、あなたがウォール街のアナリストたちに示した見通しは、言ってみれば、1年前のケンタッキー・ダービーの勝ち馬予想をするのと同程度の価値しかなくなった。
証券アナリストたちから質問を受けても、あなたは言葉に詰まってしまうかもしれない。「設備投資の計画ですか。えっと、少し待っていただけますか」「採用計画、マーケティング予算、価格戦略ですか。来週あらためてお話しできませんか」。このような苦しい状況になってもおかしくない。
問題は、目先の予算や計画が不透明なことだけではない。ほとんどの企業は、戦略の土台すべてが突然あやふやになったように感じている。どの市場を目指すべきか、自社と競合する企業はどの会社か、サプライヤーおよび販売・流通のチャネルをどのように整備すべきか、ライバルの新規参入を妨げるための障壁をどのように築いて維持すべきか、そして、以上のことすべてにAIがどのような影響を及ぼすのか──こうしたことが以前とはすっかり変わってしまったのだ。
戦略上の不確実性に足を引っ張られて、オペレーションや戦術がマヒ状態に陥ることは避けなくてはならない。もちろん、戦略を再検討し、問題はないと確認したり、あるいは修正が必要だと判断したりすることは必要だが、世界はあなたがすべて思考し終えるまで待ってはくれない。
大激変が進むペースの速さと不確実性の大きさを考えると、完璧を追求するのではなく、前に進むことを優先させるべきだろう。80%の精度で素早く前進し、その後で残された課題に対処すればよい。
筆者らの経験上、戦略を見直すに当たり、けっして後悔することのない有効な方法が4つある。大激変を乗り切ったり、予想外の好機をつかみ取ったりすること、オペレーションを改善させること、売上げを維持したり増やしたりすること──こうしたことを実践するには、柔軟性が不可欠だ。その点、これらの行動は、その柔軟性を生み出すことができる。
以下で挙げる行動は、いずれも迅速に実行できるものであり、その会社がどのような戦略を追求しているかに関係なく採用することが可能だ。安価で商品を売ることを戦略の根幹にしていようと、テクノロジーとイノベーションで業界の先頭を走ることや、顧客中心主義を徹底することを戦略の根幹にしていようと、これらの方法論を実践すれば、利益の源泉を見出し、それを守り、強化し、拡大させやすくなるのだ。
1. 流動性を確保し、財務面の柔軟性を高める
変化が激しかったり、困難が高まっていたりする時には、キャッシュに勝る存在はない。それは、資金繰りの危機から会社を守る「盾」でもあり、同時にビジネスのチャンスをつかむための「剣」でもある。
流動性不足がもたらす危機は見過ごせない。国際貿易網が寸断されればキャッシュが干上がり、為替が不安定になれば、買掛金が膨らんだり、売掛金が目減りしたりするおそれがある。また、需要が落ち込む可能性もあり、困難な状況に陥った顧客からの支払いが遅延したり、そもそも支払いを受けられなくなったりしかねない。
実際、経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、新型コロナの感染拡大により経済が大きな混乱に見舞われた時、政府の支援がなければ欧州企業の38%が流動性不足に陥っていたという。そのリスクは、キャッシュフローに対する債務返済額・利払い額の比率が大きい企業にとってとりわけ切実だ(プライベートエクイティ会社が所有する企業は、このパターンに該当する場合が多い)。