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AIによる変革に関して、陥りがちな6つの誤解
熱狂的な触れ込みを真に受けるなら、AIはまもなく私たちの靴紐を結び、事業を運営し、世界の飢餓を解決するらしい。マッキンゼー・アンド・カンパニーは、AIが世界経済に年間17兆1000億~25兆6000億ドルの付加価値をもたらすと予想している。魅惑的なビジョンだが、AIでいう幻覚でもある。ビジネスを第一に考えるCIOとして、30年近く新興技術をビジネス価値に換えてきた経験を持つ筆者は、こうした映画のような話を以前も目にしたことがある。予告編が約束するような結末を迎えることはめったにない。私たちは75年間、「機械は考えることができるか」を問うてきた。いまとなっては、「機械は」ではなく「私たちは」と問うべきなのかもしれない。
たしかにAIは強力だ。私たちの生活や働き方を変えることは間違いない。しかしその変革は、謳われているよりもっと緩慢で複雑であり、短期的には収益性から程遠い。企業は明確なROI(投下資本利益率)がないまま、AIに何十億ドルも注ぎ込んでいる。メタ・プラットフォームズやディープシークのようなオープンソースモデルは、他の大手テック企業の基盤モデル(ジェミニやチャットGPTなど)の競争優位性を急速に侵食している。また、生成AIのビジネスモデルは可能性に満ちているが、持続可能な収益への道筋は明らかではない。
AIによる変革のインパクトは必ずやってくるが、謳われているような即効性のある革命ではない。AIがどのように価値を創造し、どのくらい時間がかかるかについて、私たちは6つの基本的な誤解をしている。
1. AIによる本当のインパクトが現れるまでには、想像よりはるかに時間がかかる
1987年、経済学者のロバート・ソローが「コンピュータ時代の到来は、生産性の統計を除いて至るところで目にできるだろう」と述べたことは有名だ。それから数十年、このパラドックスの最新版がAIである。数十億ドルもの投資が行われているにかかわらず、測定可能な効率性向上はいまだ見られない。カンザスシティ連邦貯蓄銀行は、いまのところ、AIが生産性に与える影響は、これまでのテクノロジー主導のシフトと比べて控えめであるという。
これはAIが悪いのではなく、期待のしすぎである。大規模言語モデル(LLM)などの生成AIは、“GPT”(general purpose technology=汎用技術)である(チャットGPTのGPTは別の意味だが)。これまでいくつものGPTが存在してきた。印刷機、電気、インターネットなど、どれもが同じパターンをたどっている。どれもが経済に本来の変革をもたらすまでに数十年かかっている。電気は製造業に革命をもたらしたが、工場の整備が追いつくまでに40年かかった。インターネットは1970年代から存在したが、ビジネスモデルを塗り替えたのは2000年代になってからである。
AIも同様にゆっくりとした軌跡をたどらざるをえないと考えるもっともな理由がいくつかある。たとえば、マサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者でノーベル賞受賞者のダロン・アセモグルは、今後10年間で自動化と収益性が両立するタスクは5%にすぎず、米国のGDPを1%押し上げるにすぎないという。多くの人が期待する変化からはほど遠い。問題は、ほとんどの企業にとって、ディスラプション、再教育、統合、コンピューティングにかかるコストが、ほとんどのタスクの収益性を上回ることだと述べている。
それだけでなく、私たちは業務の自動化、情報のデジタル化、顧客のオンライン化、基幹インフラのクラウド化といったデジタル・トランスフォーメーションの手近な恩恵をすでに手にしている。これらの初期の成果により、効率性が向上した。しかし、新たな飛躍のたびに得られるメリットは漸減し、AI(のみならず、すべてのテクノロジー)が経済全体の生産性向上を促進することが難しくなっている。スマートフォン、SNS、クラウドコンピューティングのような画期的な技術にかかわらず、米国の全要素生産性(TFP)は50年間伸び悩んでいる。1974年から2024年までのTFP成長率は、戦後の好況時の半分にも満たない。
AIは個人の生産性を向上させるかもしれないが、当面、大規模な生産性向上をもたらすことはないし、今後もその望みは薄い。全米経済研究所による最近の調査では、導入と利用度の違いが実証された。米国成人の40%が生成AIを利用しているが、ほとんどの人は利用頻度が低かった。その低さは、総労働時間の1~5%に換算される。ユーザーの推定節約時間と合わせると、生産性向上は1%未満という結果になった。
だからといってAIが役に立たないわけではない。その価値は、即座の大規模なディスラプションによってではなく、的を絞った意図的な統合によってもたらされるということである。手っ取り早く短期的なROIに賭けるのは、資本の浪費、自動化の失敗、不要な労働力の混乱を招く危険がある。むしろ企業は、長期戦に集中すべきである。すなわち適切なシステムを構築し、チームを訓練し、AIをビジネスに役立てる方法を見出すことである。
2. 私たちは企業のAI導入を楽観視しすぎている
チャットGPTが登場した時、AIは魔法のように感じられた。一夜にして革命が起こった、と。決算説明会は、AIの話題でもちきりだった。ベンチャーキャピタルは、フル回転モードにシフトした。メディアの見出しは、AIがあらゆるものを瞬時に変えると謳っていた。このような過熱したハイプサイクルには見覚えがある。初期のPC、ドットコムバブル、プロックチェーンブーム、さらにはクラウドコンピューティングの黎明期もそうだった。また同じ失敗を繰り返す可能性は高い。