なぜ、いまこそ「組織開発」に取り組むべきなのか
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サマリー:現在、多くの組織が抱えている課題は、「なんとなくモヤモヤする」というものから、要因が複雑に絡まっていて解決法がわからないもの、技術的な対応や短期間での解決が難しいものまでさまざまです。このような課題に... もっと見る対して、効力を発揮するのが「組織開発」です。本稿では、『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋し、組織開発がなぜいまの時代に求められるのか、その背景について解説します。 閉じる

なぜいま、「組織開発」が求められているのか?

 いま、組織開発への関心が高まり、多くの企業が実践を始めている背景には、時代の流れに伴うさまざまな変化があります。ビジネスにおいては、かつてのような確率の高い「勝ち筋」が見出しにくくなり、業績が思うように伸びない。多くの業界、多くの企業が、その悩みを抱えています。

 他方で、コロナ禍や働き方改革の進展が示すように、職場の環境、メンバーの構成、働き方そのものも大きく変わってきました。かつては正社員が中心になって回ってきた企業組織は、この20年ほどのあいだに、業務委託や派遣・アルバイトなど、多様な立場の人が関わり合うようになりました。ウェルビーイングやSDGsなどの新しい考え方も台頭し、企業といえども経済性だけを中心に置くことができない現実もあります。

 業績など結果を求めさえすれば良い、という昔のシンプルなルールが通用しにくくなり、そこにさまざまな価値観が加わった、とも言えます。

 仕事のルールが複雑化し、しかもなかなか結果が出ない。そのようななかで、メンタルの不調に陥るメンバーも少なからず現れるようになった。転職、離職も、止めようがないほど増えてきた。

 このように、「良いチームや良い組織」であり続けることが、難しい現状です。

 こうした状況下で、単に仕事のテクニックに関わる課題ばかりではなく、人の気持ちやコミュニケーションのありようにまで関わる課題が組織には山積みになっています。  企業以外の組織やコミュニティ、教育現場などでも、同じようなことが起きているのではないでしょうか。

 いろいろなことが同時多発的に動き、変化しているので、まずは一人ひとりが何を思っているのか、何にモヤモヤしているのかをみんなで確かめ合っていくことが必要です。

 モヤモヤの多くには、人の気持ちや行動、メンバー同士の連携が関わります。それらを総合的に扱えるのが、組織開発の大きな特徴なのです。

 組織改革にしても、生産性向上にしても、もはや号令一下、足並みを揃えれば達成できるというわけではありません。

 多様な考えや価値観を持つ人が集まるのが組織ですから、社会情勢が複雑化すれば、軋轢やすれ違い、あるいは衝突が起こるのは当たり前でしょう。

 このような現実に対して、私たちが伝えたいことの一つが、組織開発は組織の形態を問わず、活用できる手法も多いということです。

 つまり、「使い道がけっこう広い」のです。

「技術的な解決」ばかりに目を向けていないか?

 本書『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』の著者である私たち3人は組織開発について、次のような説明もできると考えています。

 「組織のみんなで、未来について考える活動」

 目の前にある課題について、技術的な緊急対応が必要なこともあるでしょう。「製品の不具合を、ラインの調整によって修復する」「納期の遅れが発生したため、一時的にメンバーを増強して対応する」というように。

 一方で、多くの組織が抱えている課題は、「なんとなくモヤモヤする」というものから、要因が複雑に絡まっていて解決法がわからないものまで、技術的な対応や短期間での解決が難しいものが多いのではないでしょうか。

 これまでの経験則では解決できない課題を「適応課題」と呼ぶことがありますが、これを技術的な対応によって短期間で解決しようとすると、かえって事態がこじれてしまうことがあります。

 このような課題に対して、組織開発は効力を発揮します。

 たとえば、人と人との関わりに由来する課題について、そこに軽い気持ちのズレのようなものが含まれているとすれば、少し時間がかかるかもしれません。

 しかし、「自分たちはなぜこの組織で一緒に働いているんだっけ?」と考えると、「同じゴールを目指していたよな」と気がつくでしょう。

「では、この先どうなれば良いのか」と未来に対する思考が進めば、そこで新しいアイデアを考えるゆとりを持つ必要がある、などの考えに行き着くはずです。

 ここではごく単純化して述べましたが、目の前の課題にとらわれるあまり、前に進めないことは多くの人が経験するものです。それは適応課題に対して、技術的な解決を図ろうとするために陥る事態なのかもしれません。

 そうではなく、少し長い射程でとらえて、一緒に組織の未来を考える。すると、目の前の課題にとらわれず、「未来に向かって、いま何をするべきか」と視界が変わることがあります。個人についても、組織やチームについても、それは当てはまるでしょう。

『いちばんやさしい「組織開発」のはじめ方』

[著者]早瀬信、高橋妙子、瀬山暁夫
[監修・解説]中村和彦
[内容紹介]どんどん人が辞めていく、社員にモチベーションがない、などのモヤモヤを、対話のチカラで解消していくのが「組織開発」。本書では、悩みを抱える職場への処方箋として、「組織開発」のはじめ方を成功事例とともに紹介します。組織開発の第一人者と、プロフェッショナル3名によるいちばんやさしい組織開発の入門書です。

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