オニツカタイガーでは「ビジネスとしての判断」よりも「ブランドとしての判断」が先に来る
PHOTOGRAPHER BUNPEI KIMURA
サマリー:オニツカタイガーは現在、日本だけでなく、アジアや欧州を中心に、世界で人気を誇るブランドとして認知されている。国内外の売上げが低迷した時期もあったが、現オニツカタイガーカンパニー長の庄田良二氏が再建の舵... もっと見るを取り、目の前の数字を追うことはせず、ブランド価値の長期的な向上を目標とする経営を実践することで、持続的な成長を実現している。本インタビューでは、庄田氏にオニツカタイガーのブランド戦略の要諦について聞いた。 閉じる

目先の効率性を追求すれば
ブランド価値を毀損しかねない

編集部(以下色文字):オニツカタイガーの2024年12月期のグローバル売上高は過去最高を更新するなど、特にここ数年で飛躍的な成長を遂げています。インバウンド需要の効果と言われることは多いですが、日本以外の地域でも成長を実現しています。庄田さんは好調の要因がどこにあると考えていますか。

庄田(以下略):私たちとしても、インバウンド需要に応えられているから好調だと一言で言われてしまうことに対しては違和感を覚えます。単純に海外からの旅行者が増えているから商品が売れているわけではなく、その裏側には、彼らが買いたいと思うブランドとして認められるための地道な活動があります。

 オニツカタイガーの最大の特徴は、プロダクトドリブンではなく、ブランドドリブンで事業を展開する方針を大切にしてきたことです。オニツカタイガーというブランドの価値向上を目指して、東京の本社主導でグローバルにブランドを管理してきました。我々から統一されたイメージを提供できなければ、オニツカタイガーはどのようなブランドなのかを理解していただけないからです。私たちがブランドドリブンで事業を展開し、ブランド価値を高めてきたことが、海外のお客様に評価されたと考えています。

 そのうえで、トレンドに合致するあるいは先を行くような商品とトレンドに左右されない商品、この両輪で商品を展開してきました。常に新しい商品があることを喜んでもらいながら、いつ訪れても定番商品が置かれているという安心感を提供することで、お客様の幅を広げてこられたのだと思います。

 ブランドのイメージは統一しながらも顧客の幅を広げてきたことが、インバウンドをはじめとする最近の成果に結びついているのではないでしょうか。

 私たちは、自分たちにとっての成長は数字のみで測られるべきものだと考えておらず、目の前の売上げを追い求めてきたことはありません。我々がセールをほとんど行わずに、95%以上の商品を定価で販売しているのはその象徴です。セールを行えば短期的な売上げは確保できるかもしれません。しかし、定価で商品を購入したのに、次に来た時には安くなっていたら、残念な気持ちになりますよね。そのような積み重ねはブランドに大きなダメージを与え、最終的には売上げの低下につながります。

 管理職や現場の立場に立てば、短期的にでも売上げを上げたいという気持ちになるのは理解できます。それを防ぐためには何が必要だと思いますか。

 組織を意識してデザインすることが非常に重要だと思います。その中には販売網の設計なども含まれますが、普段のコミュニケーションから実践すべきです。

 たとえば、私が現場に「モノを売りなさい」と言えば「値引きをしてでも数を売ろう」という発想を持ちやすいので、「モノを売るよりも評判を大事にしよう」「評判が下がらないように何をすべきか考えよう」と伝えるようにしています。このような意識づけを行うことで、組織全体として「商品を安く売るのはよくない」という発想を自然と持てるようになり、判断に迷いそうな時も適切な行動を取り続けることができます。

 そもそも、商品を安く売ったほうがお客様にとっての魅力が増すという考え方は、ラグジュアリーブランドに有効な発想ではありません。オニツカタイガーがラグジュアリーブランドとして評価していただくためにも、社員やスタッフの意識を変え、値引きが魅力的に映るようなブランドから抜け出すことが必要でした。私自身も目先の数字にとらわれるのではなく、2年後、3年後を考えた時、ブランドにマイナスの影響を生じさせないために何をすべきかを常に考えています。