生成AI企業とクリエイティブ産業はいかに共存すべきか
HBR Staff/Unsplash/AI
サマリー:米国GDPの約8%を占めるクリエイティブ産業で、生成AIの無許可な学習利用を巡る訴訟が頻発している。フェアユースを認めるか否か、司法判断は分かれているが、法廷闘争の長期化は必至である。本稿では、相反する判決... もっと見るから得られる教訓をもとに、権利者とAI企業双方がいますぐ取るべき具体的な対策を解説する。 閉じる

生成AIの出力の価値は、何によって高まるのか

 最近の業界レポートによれば、「中核的」なクリエイティブ産業──とりわけ書籍、エンタテインメント系ソフトウェア、定期刊行物、映画、音楽作品、テレビ番組、ビデオゲームなどを制作する業界──は、2021年の米国GDPに1兆8000億ドルの貢献をしたという。

 これは米国経済のおよそ8%に相当する。したがって、これらの業界の許諾を得ていない著作物を、生成AI企業がモデルの学習に利用していることは、広く報じられているように大きな問題である。産業界のリーダー学術研究はすでに、他の重要な経済分野でも生成AIツールが労働者に取って代わっていることを指摘している。クリエイティブアーティストも同じ目に遭いかねないことは、容易に想像できる。

 こうした理由から、クリエイティブ産業の権利者たちは、無許可の著作物をモデルの学習に利用されたとして、生成AI企業を相手取り米連邦裁判所に40件以上の訴訟を起こしている。

 2025年6月にカリフォルニア北部地区の2つの裁判所は、これらの訴訟に関する最初の2つの判決を下した。どちらの判決も、権利者にとって特に望ましいものではなかった。

 1つ目の訴訟「バーツ対アンソロピック」では、3人の作家がアンソロピックを訴えた。ウィリアム・アルサップ判事は、著作物を生成AIに学習させることはフェアユース(公正利用)にあたり、したがって権利者への補償をせずに行うことができると判断した。「作家を目指すあらゆる読者と同じように、アンソロピックのLLMはそれらの作品を他に先駆けて複製したり、代替したりするためではなく、方向を大きく変えて異なる何かを生み出すために訓練されている」とアルサップ判事は述べた。

 2つ目の訴訟「キャドリー対メタ・プラットフォームズ」では13人の作家がメタを訴えた。ビンセント・チャブリア判事は異なる立場を取り、LLM生成コンテンツは人間が生み出した創作物とは根本的に異なるため、著作物を無許可で学習に利用することはフェアユースに該当しない可能性が高い、と判断した。「子どもに文章の書き方を教えるために本を用いることと、一個人が無数の競合作品を、本来必要とされるよりもはるかに少ない時間と創造力で生み出せてしまう製品の開発に本を用いることは、まったく似ていない」とチャブリア判事は結論づけた。

 筆者らはデジタル・トランスフォーメーション(DX)研究の専門家であり、この問題について熟考を重ねてきた。たとえば最近では、米国著作権局から招集された10人のエコノミストによる会議に参加し、生成AIが著作権政策にもたらす影響について検討した。