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AIをサプライヤーとの交渉に活かす方法
企業とサプライヤーの交渉において、AIが重要な役割を担い始めている。背景には、ますます複雑化するサプライチェーンや、天候や貿易摩擦といった外的要因による混乱がある。その中で企業には、これまで以上にスピード、拡張性、戦略的な柔軟性が求められている。かつては付加価値の低い反復的な交渉を自動化するためのコスト削減ツールにすぎなかったAIは、調達における重要な意思決定も行うようになっている
もっとも、AIの導入は簡単にはいかない。データの品質、規制対応、状況に応じた適切なツールの選択など、企業が乗り越えなければならない課題は多い。筆者らは6年以上にわたり、人間とAIの協働や、AIによる自律的なサプライヤー交渉の実践を研究してきた。本稿ではそれをもとに、企業がAIの進歩の価値を最大限に引き出す方法を概説する。研究対象には、小売り、製薬、消費財、物流、ITなど幅広い業界で、いち早くサプライチェーン管理にAIを導入している大手企業の事例も含まれる。
サプライヤー交渉でAIにできること
AIツールは現実の交渉において、微妙なニュアンスを扱う力を高めつつある。ガートナーの予測によれば、2027年までに企業の半数がAIを活用したサプライヤー契約交渉ツールを導入するという。その中で競争力を維持するために、企業はいまから以下の能力を構築しておく必要がある。
適切なユースケースの選定
多くの企業はパッケージや原材料など、単純で反復的な購買にAIを導入するところから「小さく」始める。しかし、AIの価値はそれに留まらない。製品やサービスにサプライヤー間で大きな差がない場合、AIは価格、納期、信頼性などの条件を比較して、最適な取引条件を導き出すことができる。
ウォルマートは一部の商品カテゴリーでAI交渉ツールを試験的に導入し、すぐに対象を拡大した。その狙いはコスト削減に留まらず、交渉のスピードやサプライチェーンの機動力の強化にもあった。
リアルタイムの市場認識
AIツールは需要と供給、価格動向、競合他社の動きをリアルタイムで追跡できる。価格変動や頻繁な再交渉の影響を受けるカテゴリーにとって、これは大きな武器になる。
交渉を自動化するAIを提供しているパクタムは、大規模なチャットボット交渉を利用して運転資本を改善し、サプライチェーンのレジリエンスを高め、コストを削減できることをみずから実証している。消費財・工業製品大手のヘンケルは価格変動の大きい製品に、この機能を活用している。海運物流大手のマースクは、既存のサプライヤーと顧客との契約下での貨物サービスの交渉や、見積もりが提示されていない場合の見積もりの自動取得に活用している。