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膨大な数のサプライヤーと
どのように交渉を行うべきか
ウォルマートは、大規模な調達業務を行っているほとんどの組織と同様に、10万を超える自社のサプライヤーすべてと交渉することができない。その結果、サプライヤーの約20%と交渉も行わずに画一的な条件の契約書に署名してきた。これは、「末端のサプライヤー」との関わり方として、最適な方法とはいえない。しかし、サプライヤーとの交渉のためにバイヤーを増員すれば、その付加価値を上回るコストがかかることになる。
ウォルマートはこの問題を、人間のサプライヤーと交渉するテキストベースのインターフェースやチャットボットなどの人工知能(AI)を搭載したソフトウェアによって解決した。ウォルマート・カナダは、2021年1月にこのソリューションを試験的に導入し、サプライヤーからのフィードバックをもとにシステムを改良した。ウォルマートはその後、ほかの3カ国でこのソリューションを導入し、近々、さらに多くの国で導入する予定だ。
本稿では、バイヤーとサプライヤーの双方に利益をもたらす自動交渉AIを採用するための、4つの指針を紹介する。このようなシステムを導入することで、コストを削減し、双方の条件を改善し、サプライチェーンの柔軟性とレジリエンスを向上させることができる。
パイロット運用
AIの進化に伴い、ウォルマートは末端のサプライヤーとの調達交渉の自動化の可能性を探り始め、2019年に「Pactum AI」というソフトウェアのライセンスを取得した。新型コロナウイルス感染症のため使用は延期されたが、筆者の一人(マイケル・デウィット)は1年後の2021年1月、所属するウォルマート・インターナショナルのためにこの取り組みを復活させた。
ウォルマートはすでにサンドボックス環境でソフトウェアの実験を行っていたため、ウォルマート・インターナショナルは、カナダ事業において小規模なパイロット運用にただちに移行することができた。3カ月にわたるパイロット運用には、サプライヤー89社、バイヤー5社、ウォルマート・カナダのファイナンス、トレジャリー、法務の各部門の代表者など、さまざまな関係者と、基盤となるAI技術を開発したパクタムが参加した。
ウォルマート・インターナショナルは当初、チャットボットがパイロット運用に参加したサプライヤーの20%と取引を成立させることができれば、このシステムの費用対効果はプラスになると見積もっていた。対象に選んだのは、ウォルマートの顧客に販売する製品ではなく、フリートサービスやカート、店舗で使用する機器などの製品だ。また、支払条件に関する正確なデータがあり、条件の改善と、さらなる値引きの可能性が明らかにあるサプライヤーに焦点を当てた。