同社は、支払いスケジュールをターゲットにし、早期支払いの割引や、割引なしの支払い期間の延長について、交渉したいと考えていた。その代わりとして、理由なくただちに契約を解除できるウォルマートの権利(「任意解除」と呼ばれる)を、30日前、60日前、90日前のいずれかの書面による解除通知に変更するオプションをサプライヤーに提供した。また、割引と引き換えに、商品の種類や販売量を増加する機会をサプライヤーの一部に与えた。
社内のバイヤーは、対象とするサプライヤーを選定し、Pactum AIの機械学習アルゴリズム用のトレーニングシナリオを作成した。このシナリオを用いて、交渉の際にサプライヤーをガイドする体系化されたスクリプトがつくられており、サプライヤーは自分のペースでシナリオに対応することができた。
ウォルマート・インターナショナルは、末端のサプライヤー約100社にこのソリューションへの参加を依頼し、89社が同意した。チャットボットは目標の20%を大幅に上回る64%のサプライヤーと合意に達し、平均交渉期間は11日だった。ウォルマートは交渉によって平均1.5%のコスト削減と、平均35日の支払い期間の延長を獲得した。
パイロット運用後、交渉が成立したサプライヤーへ行ったインタビューでは、83%のサプライヤーがこのシステムを使いやすいと評価している。カウンターオファーができることや、自分のペースで交渉について考える時間があることに好意的だった。たとえば、製パン機器メーカー「MIWE」社長のベン・ガリストは、こう述べている。
「対面での交渉では、事前に質問をもらえないこともあり、リアルタイムで対応しなければなりません。ほかのタイプの自動化された提案依頼書では、自分の要望を話す余地がほとんどなく、テンプレートのように感じることがあります」
しかし、一部のサプライヤーは対面での交渉を望んだ。また、交渉を対面や元の状態に戻すのではなく、冗長でない、より流動的な交渉AIのスクリプトを希望するサプライヤーもいた。
パイロット運用の後、ウォルマートはシナリオとスクリプトを改良し、このソリューションを米国、チリ、南アフリカのサプライヤーに拡大した。これまでのところ、チャットボットは、アプローチしたサプライヤーの68%と取引を成立させ、平均3%のコスト削減を実現している。
AIによる調達と交渉の自動化に関心のある企業は、システム開発と導入のために、次の4つの指針を適用するとよいだろう。