1. 迅速にパイロット運用に移行する

 ガートナーによると、AIを活用した企業でのプロジェクトの多くは、概念実証の段階で棚上げされ、本番稼働するのは半数以下だという。これは、概念実証の段階で、事業目標ではなく、技術的な能力に焦点を当てているためだ。ウォルマートは概念実証の段階をスキップし、事業目標に焦点を当てたパイロット運用を行った。

 またウォルマートでは、ビジネスオーナー――予算を管理し、店舗用品のオペレーション、ハードウェアとソフトウェアのテクノロジーなど、サプライヤーとの取引に責任を持つ人々――が、交渉のユースケースとシナリオの作成を支援した。

 同社のバイヤーは、チャットボットのトレーニングに必要な交渉シナリオに関する専門知識を提供し、パイロット運用に参加するサプライヤーを推薦した。いずれも交渉に値するだけのビジネスをウォルマートと行い、交渉の機会を歓迎するかどうかに基づいて判断したサプライヤーだ。そして、法務チームは、チャットボットのスクリプトとできあがった契約書が自社の契約基準やポリシーに適合していることを確認した。

2. 間接材の購買と事前承認されたサプライヤーから始める

 ウォルマートは、新しい調達法のパイロット運用がもたらすビジネスへのリスクを最小限に抑えるため、消費者に販売しない商品から着手した。また、新しいサプライヤーの検証のためにパイロット運用の開始が遅れないよう、事前に承認されたサプライヤーを対象とした。

3. 許容できるトレードオフを決める

 自動調達では、バイヤーが望むものと引き換えに譲歩してもよいものの境界を正確に定義する必要がある。たとえば、AIチャットボットは、解約条件を改善したり、サプライヤーにウォルマートとのビジネスを拡大する機会を与えたりする代わりに、請求書受領後10日以内の全額支払いから、15日、20日、30日、45日、60日での支払いに移行するなど、バイヤーがどのようなトレードオフを許容するのか、理解する必要がある。

4. 地域、カテゴリー、ユースケースの拡張によってスケールする

 このプロジェクトにおけるウォルマートのモットーは、「完璧に仕上げ、スケールアップする」だ。パイロット運用を成功させることで、同社はこのソリューションをほかの事業にも導入することができた。カナダ、米国、チリ、南アフリカでパイロット運用を実施し、メキシコ、中央アメリカ、中国での展開も控えている。また、カテゴリーも拡大し、輸送費用の交渉や消費者に販売する商品も含まれるようになった。現在では、中堅のサプライヤーも利用しており、チャットボットは多言語に対応している。

 その規模が拡大することにより、生産性も向上した。ソフトウェアが交渉のたびに学習し、新しいカテゴリーの設定時間が短縮されるからだ。さらに、チャットボットは2000件の交渉を同時に行うことができる。人間のバイヤーには不可能なことだ。

 成果は確実に現れる。取引条件のアルゴリズム化が進めば、管理されないサプライヤーや支出が少なくなる。そして、調達担当者は、契約の交渉ではなく、戦略関係の構築や例外的な課題への対処、継続的な改善に注力できるようになるだろう。


"How Walmart Automated Supplier Negotiations," HBR.org, November 08, 2022.