任天堂の浮沈を分ける「ハード×ソフト」の方程式
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サマリー:任天堂が2025年5月に発表した2026年3月期の売上高予想は「1.9兆円」と、過去最高の水準を見込んでいる。同社の業績はこれまで数々の浮沈を繰り返しており、そこにはゲーム機とソフトの売れ行きに左右されるゲーム業... もっと見る界ならではの舵取りの難しさが垣間見える。Wiiの大成功とそれに続く後継機のWii Uでの不振を教訓にして、任天堂は今回の新製品Switch 2でどのように戦略を変更したのか。2回にわたり分析する。 閉じる

過去最高の売上高なるか

 2025年6月5日、任天堂が新型ゲーム機「Nintendo Switch 2」(以下、Switch 2)を発売しました。初代Nintendo Switch(以下、Switch)の発売から8年以上が経過していたこともあってか、売れ行きは絶好調。人気がありすぎて転売対策のほうがニュースになっているほどです。

 Switch 2の発売に先立ち、任天堂は同年5月に発表した決算短信で、2026年3月期における売上高の予想を「1.9兆円」と記していました。実はこの数字は、任天堂にとっては過去最高の売上高を意味します。

 これまでの任天堂の過去最高売上高は、2009年3月期の1.83兆円。ゲーム好きならもうピンと来たと思いますが、これは2006年に発売されたゲーム機「Wii」が売れ行きを伸ばしていた頃のことです。任天堂はコロナ禍の巣ごもり需要で初代Switchが爆発的な売れ行きを示しましたが、そのSwitchですら塗り替えられていなかった過去最高の売上高を、Switch 2が実現しようとしているのです(図表1)。

図表1
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出所:各年の任天堂有価証券報告書および2025年3月期決算短信より筆者作成。

 WiiやSwitchなど、これまでにも記憶に残るヒット商品を数々手がけてきたことから、ともすると「任天堂は持続的競争優位を確立していそう」というイメージがあるかもしれません。ですが、実際には図表1からもおわかりのように、同社の売上高は過去20年間で大きく乱高下しており、競争優位はあってもそれが「持続的」と呼べるかというと心もとない状態でした。

 その不安定さを抜け出す秘策はあるのか。過去最高の売上高を見込むSwitch 2の戦略とはどのようなものなのか――そこで今回は、日本が世界に誇るゲームメーカーである任天堂を分析していきたいと思います。

Wiiの成功を継承できなかったWii U

 図表1で見てきたように、任天堂は2009年3月期に売上高1.83兆円という過去最高を記録した後は、前年対比で8年連続の減収、うち2012年3月期から2014年3月期までの3年間は営業赤字という憂き目に遭いました。

 筆者は研修等でよく、この図表1のグラフをお見せした後に「この時期、任天堂の売上高はなぜこれほど下がってしまったのだと思いますか」と質問します。

 その際によく挙がるのが「スマホゲームが台頭してきたから」という意見です。たしかにこの時期は、ディー・エヌ・エー、グリー、ミクシィ、ガンホーといったスマホゲームを主戦場とする企業が業績を伸ばしたタイミングと重なります。とはいえ、それはSwitch発売後も同様で、スマホゲームの人気はいまだに衰えていません。

 では、2009年3月期以降の任天堂が業績を落とすことになったより根本的な原因は何なのでしょうか。それは、世界的ヒットとなったWiiの後継機である「Wii U」が不振に終わったためです。また、Wiiの時期には携帯ゲーム機である「ニンテンドーDS」の売れ行きも好調でしたが、その後継機である「Nintendo 3DS」も売れ行きがいま一つの結果に終わりました。

 ここに、任天堂の業績を左右するカギがあります。