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コミュニケーション規範が不明確だと摩擦が生じる
有効なコミュニケーションは、組織が好業績を挙げるための基盤となる。リモートワークが日常となったいま、そしてスラックやチームズ、ワッツアップ、さらにはオンライン社内掲示板などのデジタルツールが普及している現代はなおさらだ。だが、多くのリーダーは、明確なコミュニケーション規範を策定しておらず、燃え尽き症候群(バーンアウト)や非効率的なオンボーディング、時間の無駄、そして生産性の低下をもたらしている。
実際のトラブルをいくつか挙げてみよう。マネジャーが意思決定ミーティングの前に詳細なメモを送っておいたのに、誰も目を通してこなかった。同僚が緊急のズーム会議に参加できなかったのは、めったにチェックしないスラックでアラートが送られたからだった。CEOがいつまで経っても6ページのメモに承認を出さないのは、提出者がメールの本文に要約を含めなかったからだ。そして、取締役会の準備をしているリーダーが、5つの事業部門から一貫性を欠く5本の報告書を受け取り、その調整を図ることに時間を浪費した──。
こうした事例は、コミュニケーション規範が不明確だと摩擦が生じることを示している。AIが支援するライティングが普及するにつれて、文字でのコミュニケーションは増える一方だろう。したがって、読みやすさを優先する明確な規範を確立して、執筆者が人間であろうと、AIであろうと、あるいは人間とAIの共同作業であろうと、人間の読者が情報を簡単に処理できるようにすることがいちだんと重要になっている。
筆者らは、有効なコミュニケーションについて数百件に及ぶ無作為抽出実験を行ってきたほか、米陸軍からマイクロソフト、メイヨー・クリニックからスタートアップまで、数十の組織でライティング文化の改善を指導してきた。その結果、独自の有効なライティング文化を構築して、前述のような問題を回避するためには、リーダーとチームが対処すべき点がいくつかあることがわかった。
素早い対応の期待
職場のコミュニケーションにおける大きなストレス要因の一つは、緊急性に対する期待の不一致だろう。「メール緊急性バイアス」に関する研究によると、受信者は送信者が実際に期待するよりも早く対応するようプレッシャーをかけられていると感じることが多い。逆に、迅速な決断を求めるメッセージが、何日も気づかれないこともある。どちらのシナリオも不要な摩擦を生み出し、チームのスピードを落とすことになる。
こうした不一致を防ぐために、組織はコミュニケーションチャネルごとに、対応時間の明確な基準を確立すべきだ。たとえば、メールは24時間以内に対応すればよいが、スラックやチームズのメッセージは数時間以内に対処する必要がある、といった合意をつくっておく。それと同じくらい重要なのは、タイムリーな対応ができない場合、それを送信者に知らせる共通のプラクティスを確立して、イライラや遅延を防ぐことだ。
対応のスピードに加えて、従業員がいつ関与することが期待されるかも明確にする必要がある。明示的な規範がなければ、就業時間外のコミュニケーションは、仕事とプライベートの境界を曖昧にし、バーンアウトや不均一な仕事量につながるおそれがある。これを防ぐために、「クワイエットアワー」(静かな時間)を設けたり、コミュニケーションの境界を伝えるメッセージが自動返信されるようにしたり、勤務時間外のメッセージについては「後で送信」機能の使用を奨励したりするといった方法がある。こうした期待を積極的に設定すると、リーダーは迅速な対応とウェルビーイングのバランスが取れた職場文化を育み、いつなら対応すべきで、いつなら完全に仕事から切り離されるかを明らかにできる。