「分析力」養成講座〔Toward a Higher Level of Analytical Excellence〕

ダニエル・マクファデン
カリフォルニア大学バークレー校 経済学部 教授

 不確定性原理を発見したドイツの量子物理学者ヴェルネル・ハイゼンベルクは「部分は全体に影響を与え、全体は部分に影響を与える」と提起した。いわんや、マクロを知るには、ミクロを知らなければならない。

 我々はマクロを語る時、経験則的に最も影響のほどが大きいと考えられるマクロ変数にばかりに目が行ってしまう。概してそこには「個としての人間」というミクロ変数が不在であることが多い。

 市井の世間話ならばともかく、国策や企業戦略において、ミクロの視点に欠けたマクロ論議は、不確実性を放置している以外、何物でもない。

 しかし幸いなことに、個人の意思決定の拠りどころとなっている定性要因を定量化し、これらを積み上げ、集合体の行動を予測する分析モデルが存在しており、しかもすでに社会の至るところで実践・活用されているという。

 20年以上も前にこのモデルを構築したのが、2000年ノーベル経済学賞に輝いたカリフォルニア大学バークレー校教授のダニエル・マクファデンである。その受賞に当たっては、この個人の離散的選択の分析に基づく集合体の需要予測モデルの構築などの研究が評価された。

 マクファデンは大学院で物理学を専攻していたのをはじめ、行動科学や数学など多岐にわたる知識を身につけている。これら「学際の知」の融合が、受賞へと導いたのだろうか。60歳を過ぎた現在も、その好奇心はいささかも衰えることはない。そのような彼に「分析力」を高める条件を聞く。