ニンブル・リーダーシップとは何か――革新的企業に共通する3つのスタイル
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サマリー:1922年の創刊以来、戦略、マーケティング、リーダーシップ、人材育成など、各分野で新たなコンセプトを提示し、世界のリーダーに読み継がれてきた『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)。その100年の歴史を踏まえ、「これからの100年」を生き抜くための普遍的な論点や考え方をセレクトしたのが、書籍『経営とは何か ハーバード・ビジネス・レビューの100年』だ。本稿では、本書より、「ニンブル・リーダーシップ」(機動力の高いリーダーシップ)に関して語られたポッドキャスト番組の内容を再編集して掲載する。

 いまどき、指揮管理型(コマンド・アンド・コントロール)によるマネジメントに魅力を感じる者はいない。革新的な組織をつくりたいと願う経営者に、ガチガチの官僚組織をつくれとアドバイスする者もいない。だが、どんな組織をつくればいいのだろう。カオスに陥ることなく創造性にあふれた組織をつくることは可能なのか。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクール・オブ・マネジメントの教授で、MITリーダーシップセンターの創設者であるデボラ・アンコーナと、同センターの研究員であるケイト・アイザックスが、この問いに取り組んだ。彼女たちは理想的な組織の姿を明らかにするために2つの企業を調査した。ゼロックス傘下のR&D企業PARCと、ゴアテックスで知られる材料科学企業のW. L. ゴア・アンド・アソシエイツである。

 2人はこのインタビューで、理想的な組織には3つの異なるタイプのリーダーシップが存在し、それらが一定のルールの下で協調的に機能することで、仕事が柔軟かつ機動的に進められていると語っている。彼女たちはこれらを「ニンブル・リーダーシップ」(機動力の高いリーダーシップ)と総称し、そのようなリーダーシップで動く組織を「ニンブルな組織」と名付けた。『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)誌上で発表された論文(邦訳「会社の機動力を高めるニンブル・リーダーシップ」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2020年1月号)に基づくインタビューである。

革新的な伝統企業に共通するリーダーシップと組織風土

カート・ニキッシュ(以下略):この2社を選んだのはなぜですか。

デボラ・アンコーナ(以下デボラ):いわゆる分散型リーダーシップ、私たちが言うところの「ニンブル・リーダーシップ」という機動力の高いリーダーシップスタイルに興味があったからです。そのため、イノベーションの最前線を進み、起業家精神によって行動し、官僚主義や規則に縛られていない企業に注目しました。

 PARCもゴアもスタートアップ企業ではありません。長い歴史のある組織ですが、環境の変化に適応し、高度なレベルでイノベーションを起こし続けています。そして、前向きな気持ちで仕事に打ち込む優秀な人材に事欠くこともない。そんな組織があることを、この2社の存在が実証しています。両社はニンブルな組織の典型的な実例です。

──この2社には、明らかにほかの会社と違うと感じさせる何かがあるのでしょうか。

デボラ:強くそう感じます。これまでさまざまな組織の従業員にインタビューしてきましたが、こちらが心配になるような組織もあります。仕事にやる気が出ないとか、出社するのが苦痛だというような話は、どんな会社でも聞きました。インタビューに答えながら泣き出してしまう人もいました。

 ところが、私たちは2カ月に1回ぐらいゴアを訪問したのですが、ほかの会社とは全然違うんです。みんな活きいきと仕事をしていて、「こんなものを発明した」「いま、これに取り組んでいる」「組織の運営方法を再構築するビジネスモデルの新しいアイデアを生み出したところだ」といった話が次々に飛び出してきます。変な興奮状態にあるわけではなく、落ち着きの中にエネルギーとワクワク感があって、自由に動いているという感じが伝わってくるのです。社員はみんな多くのことに取り組んでいるのですが、そのことに満足しているようでした。

──組織が混乱に陥ることなく、社員が創造力を発揮して働いているということですね。秘訣は何でしょう。CEOが社員と仕事のことを本当にわかっている、ということでしょうか。ゴアのような会社の秘訣は何だと思いますか。

ケイト・アイザックス(以下ケイト):たしかに、ゴアにはCEOを筆頭にそんなリーダーたちがいます。しかし、カギはリーダー個人ではなく文化です。そんなふうに社員を動かす原則が、組織の文化として根付いているのです。個々のリーダー、企業文化、そして組織構造があいまって、会社全体を動かしている。そのような原則は創業当初からあり、時間をかけて磨き上げられてきたものです。

──HBRに寄稿された論文「会社の機動力を高めるニンブル・リーダーシップ」で印象的だったのは、こうした企業では、自分をリーダーだと考えている人の割合が高いと書かれていたことです。それは分散型リーダーシップの組織でも見られる現象です。両社を説明するうえで、なぜ「ニンブル・リーダーシップ」という用語を使ったのでしょうか。

ケイト:私は以前から「分散型リーダーシップ」という言葉が好きではなかったんです。この言葉を聞くと、コップの水に赤いインクを一滴たらして、全体がほんのりピンク色に染まっていくような様子を連想してしまいます。何かが薄まりながら全体に広がっていく、というのが私にとっての「分散型」のイメージなのです。私たちが考える理想的なリーダーシップは、そういうものではありません。

「ニンブル・リーダーシップ」が機能している組織では、誰もが自分には権限が与えられている、力があると感じています。自分の得意な分野で成長でき、チームをリードできるという手応えを感じている。必要なら仕事の分野を変えて経験の幅を広げることもできるし、会社もそれを応援してくれる、と考えているのです。ニンブルな組織では、社員はそのように考え、同僚も上司も含めて会社全体がそれを支援するという、成長のプロセスが常に進行しているのです。

 つまり、「ニンブル」というのは、組織の中で何か必要が生じた瞬間に、適切なリーダーシップがそこに存在していて、組織全体が市場の変化や顧客の要望に迅速に対応できるという意味なのです。ニンブルな組織は顧客の不満にすぐ対応できます。なぜなら、顧客のニーズや希望を満たすために必要なことを実行する権限が全員に与えられているからです。

──全員が会社の戦略と一貫性のある行動をしているということですね。

デボラ:その通りです。その戦略は、賢げな言葉で表現された押し付けの戦略ではなく、組織の深いところまで浸透した戦略です。私たちがつくるのはこういう製品だ、私たちはこういうビジネスで利益を上げている、とすぐに語れて、そのために自然に体が動くような戦略です。プロジェクトが成功するかどうか、いちいち理屈で考えなくても仕事に打ち込める人々が働いている組織には、いわく言いがたい魅力があります。そういう組織では、自社のビジネスモデルを正しく理解し、自分の仕事が会社の成功にどう結び付いているかを実感している人々が働いています。

ケイト:組織のどこで働いている人でも、自分の持ち場でそのことを具体的に理解しています。たとえばゴアには、「使用に堪える性能」というシンプルなルールがあります。何をするにしても、どんな製品をつくるにしても、意図した用途にふさわしいものでなければならないという当たり前の話です。故障するケーブルを搭載した宇宙ロケットを飛ばしたくないし、水が染み込むジャケットをエベレスト登頂隊に着せたくないということです。

 そのため、徹底した製品テストを行い、常に品質に気を配り、製品が現場でどんなふうに使われて機能しているか、常に顧客とコミュニケーションを取っているのです。これは、全社的な戦略レベルでも製品開発レベルでも当てはまるシンプルなルールです。このようなシンプルなルールが、全社の高度な戦略と、末端の現場で社員一人ひとりが行っている具体的な行為に、明確な一本の筋を通し、全社員を結び付けているのです。

起業家型リーダー、支援型リーダー、設計型リーダー

───お二人は、組織の各レベルで必要とされるリーダーシップスタイルを分類されました。下位のプロジェクトレベルでは「起業家型リーダー」、中間層では「支援型リーダー」、そして上層部では「設計型リーダー」が求められるという3分類です。それぞれについて説明してもらえますか。

デボラ:起業家型リーダーというのは、組織にイノベーションの種を蒔き、育てていく力がある人のことです。常に新製品のアイデア、新しいビジネスモデル、新しいチーム運営のあり方を考え出すような人たちです。他の社員に働きかけて、新しいアイデアを実現させるために一緒に仕事をするように巻き込むことができます。彼らはチームをつくり、そのチームが新しいアイデアを組織に浸透させるのです。単にアイデアを思い付くだけでなく、実現の機会をつかみ、組織に浸透させるのが起業家型リーダーです。

──そのために、いま関わっているプロジェクトから離脱して、別のプロジェクトに加わる自由も与えられている、と書かれていますね。

デボラ:そうです。社員が自由に、いまの環境下で成功する可能性が高いと思うプロジェクトに参加できるので、会社の中に予測市場のようなものが形成されます。社員が、言わば自分の行動によって投票することで、次のプロジェクトがおのずと形づくられていくのです。何をするか、ドアの向こうでマネジャーが決めるのではなく、社員がみずからの判断で最善のプロジェクトを形成していくのです。マネジャーはおちおちしていられませんよ。

ケイト:そのような動きを可能にするために、プロジェクトリーダーには、才能のある人材を自分のところに抱え込まず、他のチームに送り出す姿勢が求められます。この人は優秀だから自分のチームに残しておきたいし、ここでも大きな貢献ができるだろうけれど、向こうで活躍してもらうほうが会社全体にとって効果が大きそうだし、本人もそうしたがっているから、よしとするか。こんな感じで、リーダーたちも納得しているようです。本人の希望に反して、また会社全体の利益に反して、メンバーを自分のチームに縛り付けるリーダーは存在しません。彼らはいつも、組織全体にとって何がベストか、個人にとって何がベストかを考えているのです。

──「マネジャーはおちおちしていられない」ということですが、チームをコントロールできなくなる危険も隣り合わせということでしょうか。

デボラ:私は経営幹部向けの教育をたくさん行っていますが、ほとんどすべての企業は、官僚主義や指揮命令型マネジメントをやめて、機動性に富む分散型の学習ネットワーク──まあ呼び方は何でもいいんですが──そんな感じの組織に移行したがっているようです。彼ら彼女らと接してそう感じるわけですが、それは最近の多くの調査結果とも一致しています。今後3年で自分の業界や環境に大きな変化が起こると感じている経営幹部の割合は、2018年には26%だったのに対し、2019年には76%に上っています。大きな変化に見舞われるという予感から、経営者はこれまでと違う組織を求めるようになるはずです。

 しかし、何をすればいいのかわからず、失敗の不安もあって、動き出すことができないでいるのです。どんな組織にすればいいのかわからない。経営者としての力を失うことになるのではないか。手綱を手放したら、どうなるんだろう。リーダーたちはそんな恐れに囚われているのです。たしかに怖いでしょうね。

──支援型リーダーについては、リソースを正しい方向に導いて管理する人と説明されていますね。要するに中間管理職と同じような気がしますが、何が違うのでしょう。

デボラ:支援型リーダーは起業家型リーダーを支援する存在です。起業家精神旺盛なリーダーは、えてして経験が浅く、しなくてはならないことのすべてができるとは限りません。そこに支援型リーダーが手を差し伸べるのです。支援型リーダーは、起業家型リーダーに命令するのではなく、指導し、適切な問いを投げかけることで、彼らをサポートするのです。単に上と下の中間で管理するというリーダーシップとはまったく違います。

──適切な問いとは、どういうものですか。「どっちに行くべきだと思う?」「どこに機会があると思う?」「他の部署のXさんと話してみようと思ったことはない?」といったものでしょうか。

デボラ:まさにそんな感じです。「こうしなさい」とか「やめておきなさい」というのではなく、「これについて考えたことがある?」「あれについてはどう?」という問いです。決定を相手に委ねる自由なアプローチで、自分なりに問題を解決するよう考えさせるのです。いわゆる中間管理職と違い、支援型リーダーには厳密に定義されていない多くの仕事があります。

 私たちは組織を小さな箱のようにとらえ、部下をその中に押し込みがちです。「これと、これと、これをしてください。でも、これはしないで」と言っているのです。支援型リーダーはもっと自由自在で、必要に応じた方法で同僚や部下を支援します。組織文化の何かを強化する必要があると思えば、その強化につなげることができる。戦略の説明役に徹する必要を感じれば、そうすることもできる。急ぎの仕事を手伝わなければならない状況では、腕まくりして一緒に汗をかきます。

 柔軟な発想で動く創発的なリーダーシップと言ってもいいでしょう。「つなぐ」ことが支援型リーダーの大切な仕事です。彼らは幅広いネットワークを持っていて、あちこちに出ていって人と会い、機会を見つけてきます。支援型リーダーはチームメンバーをつなぎ、起業家型リーダーたちをつなぎ、チームとチームをつないで、イノベーションに必要な、専門領域の壁を越える「創造的な衝突」を引き起こすのです。

ケイト:一点、付け加えさせてください。伝統的な階層型組織には、上のほうに経営陣と上級管理職がいます。彼らと現場の社員の間には中間管理職がいて、仕事に必要なリソースや承認などは、そこを通って上下に行き来しなくてはなりません。

──そんな中間管理職の層を「永久凍土」と呼んでいる人がいます。

ケイト:永久凍土。言い得て妙ですね。使わせてもらいましょう。そんな永久凍土でも穴を開けることはできるかもしない。つまり中間管理職の層に穴を開けて上にメッセージを伝えるということですが、それができれば上層部が意欲とアイデアに目を向けてくれるかもしれません。ただ、提案が承認されて予算措置が取られる頃には、競合他社がすでに動き出しているかもしれない。

「支援型リーダー」という名前を選んだのは、さっきデボラが言ったように、最前線にいる人たちがアイデアを出し、製品や顧客の問題に創造的な方法で対処できるよう、必要なリソースを確保して支援するのが仕事だからです。行動を制限したり、規則に従わせたりすることは彼らの仕事ではありません。現場が必要とするリソース、注意、コーチング、ネットワーク、つながりを、それが必要とされている時に引っ張ってくるのが彼らの仕事なのです。

──次に設計型リーダーについて説明してもらえますか。多くの組織ではシニアリーダーとかトップマネジメントと呼ばれる階層です。そういう呼び方をされる従来のリーダーと設計型リーダーは何が違うのでしょうか。

デボラ:設計型リーダーの仕事は、何よりもまず、ゲームボードをつくり、整えることです。ゲームボードとは、起業家型リーダーがアイデアを生み出し、それを実現するために必要な文化、支援型リーダーが仕事をするのに必要な仕組みのことです。企業文化を守るのが彼らの仕事であり、組織の価値観や行動規範を常に意識していなくてはなりません。

 変化をデザインするのが設計型リーダーの仕事だといっても、命令や指示によって変化を牽引するのではありません。みずからが素晴らしいリーダーとなり、文化によって会社を動かそうとしていることを全社に浸透させることによって、変化を牽引するのです。

 設計型リーダーの次の仕事は、なぜ変える必要があるのか、なぜそれがよいアイデアなのかを理解してもらうために、コミュニティのメンバーと徹底的に話し込むことです。変化に同意しない人の意見にも耳を傾け、対応しなければなりません。もっとも、その点に関しては、トップダウンの組織改革には問題があると考えたCEOがていねいすぎるほど事前の議論に時間をかけたために、しびれを切らした部下たちから、話はこれぐらいにして実行しましょう、と言われたケースもありましたけど。

ケイト:新製品のアイデアや新しい革新的なアイデアを、組織戦略との整合性を保ちながら組み入れることも、設計型リーダーの役割の一つです。デボラはずっと前から、設計型リーダーは優れた「センスメーカー」でなければならない、と言い続けてきました。世界の動向、市場環境、テクノロジーや経済のトレンドに注意し、それに適応できるように組織を動かすという意味です。

 そういう高度なレベルの情報や意識は、組織の全員に求められているわけではありません。そのような情報を仕入れることを怠らず、組織全体から湧き上がる革新的なアイデアを観察して創発的な戦略プロセスへと結び付けるのが設計型リーダーの仕事なのです。

──言い換えれば、会社を動かす方法や規律は一つではなく、さまざまなものがあるということですね。こう言ってしまうと、ルーズに聞こえると感じる人がいるもかもしれませんが。

ケイト:ええ、多くの規律があります。トップが決めるのではない、別の種類の規律です。集団的な作用として働く規律です。組織が選ぶべき適切な戦略や行動について、人々の意識に深く刻み込まれているような規律と言ってもよいでしょう。そんな高度な自律性があるからこそ、優秀な人材が集まり、優れたアイデアを実現させようという気になるし、そのために頑張れるのです。

 先ほど予測市場について触れましたが、よいアイデアには人材を惹き付ける力があり、その力は組織の隅々まで届きます。設計型リーダーが価値あるアイデアを説き続けるなら、人はそのアイデアの下に集まって心を一つにするものです。

 悪いアイデアなら、それを進めようとする人材は集まってきません。最後には頓挫することが、わかる人にはわかるからです。つまり、予測市場は否定的な判断によっても形成されるということです。このアイデアは有為の人材を惹き付けるのか、あなたが売り込みたいアイデアに部下はすすんでサインをしてくれるのかが問われるわけです。

──市場の変化を見極め、それに対応するための命令を下すのではなく、市場の変化を組織に受け入れ、部下をそれに反応させるのが設計型リーダーだということですね。

ケイト:そうです。そこが従来のシニアリーダーと違うところです。

デボラ:そういう組織は、自分に自信のない気の弱い人には向いていません。複雑で変動要素が多いからです。この方向への変化を促すために行っている、カードを使った面白いエクササイズを紹介しましょう。

 カードは21枚あって、1枚に1つずつ、ニンブルな組織の属性が書かれています。リーダーの皆さんに、「現在あなたの組織に備わっている属性と、あればいいと思うけれど備わっていない属性を選んでください」と言って、数枚ずつカードを選んでもらいます。次に、「あったらいいなと思っている属性を獲得するために、すぐに始められる取り組みを3つ考えてください」と言うのです。

 すごく楽しいエクササイズになるんですよ。同じ組織の人でも、自分たちに備わっている属性について認識が分かれることがあります。グーグルでこれを行った時は、全員が自分たちにはすべて備わっていると思っていて、それにはこちらが驚いてしまいました。すべてが十分なレベルに達しているとはいえないまでも、一通り備わっているというのが彼らの一致した自己認識でした。

 かと思えば、21の属性のどれ一つ備わっていないという評価が多く見られた組織もありました。結果はどうあれ、このエクササイズは、あるべき組織の姿を想像する刺激を与え、望ましい変化を起こすための身近な取り組みを意識するきっかけになります。

成長マインドを組織に根付かせる

──ニンブル・リーダーシップはどんな組織でも可能なのでしょうか。

ケイト:多くの組織がこのような働き方の実験をしています。オランダで成功しているINGという銀行は「アジャイル(機敏)な働き方」にシフトしました。これは私たちがHBRの論文に書いた組織の姿とよく似ています。この銀行は、仕事の違う9人一組のチームを350つくり、チーム間をつなぐ仕組みも設けました。リーダーの一人は、「自分はコントロールしたがる管理職であることがわかりました。部下に自律性を持たせて自由にやらせるアジャイルな働き方は、私には簡単ではありませんでした」と自己発見を述べています。

 多くの人が述べた感想は、働き方改革によって仕事が楽しくなったというものです。顧客の問題を解決するスピードが格段に速まったというのです。彼らは銀行です。住宅ローンとか証券とかを扱う手堅さが命のような組織です。銀行でニンブルなリーダーシップが可能なら、あらゆる業界で、製品イノベーションの領域以外でも可能なのではないでしょうか。

デボラ:HBRの記事では、サティア・ナデラが牽引したマイクロソフトの改革のことも紹介しました。この会社は12万5000人の従業員を抱える巨大な組織ですから、自分の会社とは事情が違うと思う人も多いでしょうけど、彼らの経験から、どんな組織でも応用できるさまざまなことを学ぶことができます。

 ナデラは、業績不振に悩むマイクロソフトのターンアラウンドを実現しました。勤続22年の彼が2014年にCEOに就任した時、会社は明確な序列で動く階層型組織で、チームは協調より競争に忙しいという状態でした。それがコラボレーションや創造性、イノベーションを阻害していたのです。これでは会社が発展するわけがないと考えたナデラは、ニンブルな組織の確立に向けた取り組みに着手しました。

 新しいゲームボードと新しいシニアリーダーシップチームを導入し、厳密な業績評価ランキングによる人材管理を廃止して、ゴアやPARCが行っているようなコーチングと育成を重視したアプローチに移行したのです。

──ニンブルな組織の中には、従来は上が中央集権的に決めていた事柄、たとえば報酬についても、下位のマネジャーに一定の裁量権が与えられているケースもあるようですね。

デボラ:その通りです。イノベーションの流れを途絶えさせないために必要なことを、もっと自由に行えるようにしました。成長を促すグロースマインドセットを基盤とする文化を再認識したのです。それはスタンフォード大学の心理学者、キャロル・ドゥエックの研究に基づいています。

 ドゥエックは、人の学習と成長に枠をはめることはできない、人間はいつまでも成長でき、学ぶことができると考えています。失敗してもそこで挫折するのではなく、この失敗から何を学べるか、どうすれば今度は成功できるか考えることができるのが人間です。

 組織に必要なのは失敗を責める文化ではありません。どうすればもっとうまくできるのか、次はどうすればいいのか、と問い続ける文化が必要なのです。ナデラは、この成長マインドを会社全体に根付かせるために懸命に努力しました。彼が実行した変革のためのいくつものステップは、私たちが特定したモデルと重なる点がたくさんあります。


デボラ・アンコーナ(Deborah Ancona)
マサチューセッツ工科大学スローンスクール・オブ・マネジメント教授。

ケイト・アイザックス(Kate Isaacs)
MITリーダーシップセンター リサーチアフィリエート。

聞き手=
カート・ニキッシュ(Curt Nicksch

『ハーバード・ビジネス・レビュー』シニアエディター


“The 3 Types of Leaders of Innovative Companies,” HBR IdeaCast (Podcast) /Episode 690, July 9, 2019.

『経営とは何か ハーバード・ビジネス・レビューの100年』

[編]ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
[訳]DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部
[内容紹介]1922年の創刊以来、戦略、マーケティング、リーダーシップ、人材育成など、各分野で新たなコンセプトを提示し、世界のリーダーに読み継がれてきた『ハーバード・ビジネス・レビュー』。その100年の歴史を踏まえ、「これからの100年」を生き抜くための普遍的な論点や考え方をセレクトし、お届けする。

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