ビットコインを自社のバランスシートに組み入れるべきか
Illustration by Mariano Pascual
サマリー:ビットコインの急騰と規制緩和を受け、企業がバランスシートに暗号資産をどれだけ組み入れるべきかが新たな経営課題となっている。積極的な投資戦略は注目を集めるが、金利上昇などで逆回転するリスクも大きい。ビッ... もっと見るトコインは「デジタルゴールド」と見なされがちだが、実際はリスク資産の側面も持つ。本稿では、資産とネットワークという両面からビットコインを評価し、金との需要シェアや決済インフラとしての普及度合いを見極めながら、最適な保有比率を探る戦略を提言する。 閉じる

企業はビットコインをどのように扱うべきか

 主流の企業財務は2025年、数年前ならば考えられなかったであろう議論に巻き込まれている。自社のバランスシートに暗号資産(仮想通貨)をどれほど組み入れるべきか、という問題だ。トランプ大統領による「戦略的ビットコイン準備金」の大統領令、ドル安傾向、規制環境の緩和に後押しされたビットコインの最近の価格上昇によって、暗号資産は突如、従来の保守的な投資家にとってさえ無視しがたいものとなった。

 政府系ファンドはひそかに保有比率を増やし、テキサスやワイオミングなどの州財務官はビットコイン準備金法案の策定を進めている。401k(確定拠出年金)によるオルタナティブ資産への投資も解禁された。テスラやブロック、フィグマ、マスミューチュアルといった有名ブランドも、かつて「魔法のインターネットマネー」と揶揄されたものをバランスシートの勘定科目として加えた。

 マイケル・セイラー率いるストラテジーに触発された一部の異端企業は、加熱した期待をビットコイン蓄積のループに変えようとしている。自社株を高値で売り、売却益で(時には安価な転換社債も利用して)ビットコインを買い増し、株価の上昇を見守り、また同じことを繰り返すのだ。

 当然ながら、これが機能するのは株式がビットコイン保有高に対してプレミアム価格で取引され、かつ追加の資金調達が容易な時に限られる。プレミアムが消滅し、金利が上昇したり負債が返済期限を迎えたりすれば、このループは逆回転する。希薄化、借り換えの苦労、ビットコイン単体の価格を下回る株価などにつながり、急激な下落局面では暴落が待っている。

 CEO、CFOと財務担当者は、この問題にどう取り組むべきなのか。ビットコインを完全に無視するか、バランスシートの大部分を占めるほど保有するかの両極の間に、思慮深いビットコイン財務戦略の出発点がある。真に問うべきは、個々の企業がこの間のどこに着地すればよいのか、およびその理由は何かである。

ビットコインとはどのような性質の資産なのか

 バランスシート上の保有比率を決める前に、企業の財務担当者はビットコイン資産の役割を定義すべきだ。運転資金、資本の保全、ヘッジ(金利、インフレ、為替)、分散投資、または担保と資金調達に用いるのかを明らかにしたうえで、それを現金や優良国債といったもろもろの価値貯蔵手段と比較検討する必要がある。

 ビットコインは過去5年間で最もパフォーマンスが高かった資産の一つであり、これを上回ったのはエヌビディア株などごく少数の例外のみである。とはいえ過去の実績は、将来のパフォーマンスを保証するわけではない。同期間にビットコインはピークから約78%の下落に見舞われ、2年以上にわたって高値水準を回復できなかった。こうした下落は、「安全な逃避先」としてのオルタナティブ資産において見られないわけではない。金(ゴールド)の価格は1980年のピークから約70%下落し、約30年にわたって名目水準は回復しなかった。

 金とビットコインはどちらも稀少資産であり、その価値は社会的合意に依存する。金の非貨幣的利用(電子機器、歯科、宝飾品)は価格の下限を支えるが、価格水準自体を決めるものではない。金は主に価値貯蔵機能に対するプレミアムで取引され、中央銀行と投資家が清算価格を決め、加工用需要が下支えとして機能する。

 しかし、ビットコインと金の類似性はそこで終わりだ。景気後退期にS&P500との相関が低い、もしくは負の相関を見せる傾向がある金とは違い、ビットコインは流動性に敏感かつ高ベータのリスク資産のように動いてきた。2021~22年の金融引き締め局面ではハイテク株とともに売られ、過去40年で最大のインフレショックの期間を通して回復することはなかった。これは、最も忠実なビットコイン支持者の一部が必死に擁護する「デジタルゴールド」や「インフレヘッジ」といった単純な見方とは相容れず、より細かい説明を必要とする。

ソフトウェアとしての通貨、通貨を動かすソフトウェア

 企業のバランスシート上の判断においては、資産とネットワークの両方を考えるべきだ。バランスシート上でビットコインを保有しても、その長期的な経済性を決定づけるのはネットワークである。ビットコインは稀少なデジタル通貨の開発に加え、発行、会計、移動を行うための技術スタックだ。時とともに価値はビットコイン(資産)と、ビットコインのネットワーク(プロトコル)との相互作用から生まれる。現在その価値は主に「デジタルゴールド」として現れているが、ネットワークのレールがその価値を大規模に動かし始めたらどうなるのかを考える必要がある。