家庭料理に破壊的な変革を起こしたジュリア・チャイルドの思考法
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サマリー:スコット D. アンソニーは新著Epic Disruptions: 11 Innovations That Shaped Our Modern Worldで、iPhoneやトランジスタなど、産業と社会を再構築した破壊的イノベーションを考察している。本稿は同書から、画期的... もっと見るな料理本を通じて本格的なフランス料理を米国の家庭に届け、食文化に革新をもたらした料理研究家ジュリア・チャイルドに関する章を抜粋、編集したものを紹介する。 閉じる

 スコット D. アンソニーは新著Epic Disruptions: 11 Innovations That Shaped Our Modern Worldで、iPhone、トランジスタ、使い捨ておむつなど破壊的イノベーションが産業と社会を再構築した過程を考察している。本稿は米国の料理研究家ジュリア・チャイルドに関する章から抜粋、編集したものである。

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 目を閉じて、世界を変えた破壊的なイノベーションを生み出した人物を想像してみよう。おそらくあなたの頭の中には、エヌビディアCEOのジェンスン・フアンやオープンAIのCEOであるサム・アルトマンの顔が浮かんでいるだろう。あるいは歴史好きな人なら、ヘンリー・フォードとT型フォード、さらに遡ってヨハネス・グーテンベルクと活版印刷機を思い出しているかもしれない。

 いずれももっともな人選だが、破壊的なイノベーターには実にさまざまな形や個性がある。たとえば、あなたの手元にある料理本を1冊取り出して、適当なページを開いてみる。おそらく左側に材料や調理器具、右側に手順が書かれているはずだ。料理本とはそういうものだ。

「そういうもの」になったのは、ある時点で、ある人物が、このレイアウトが最も理にかなっていると考えたからだ。そして実際に試したところ、読者に受け入れられ、他の著者たちが真似して、それが標準になった。

 その人物とはジュリア・チャイルドだ。

 私は拙著Epic Disruptionsでチャイルドを紹介している。では、彼女はいったい何を破壊したのだろうか。

 あなたは、1950年代の米国郊外に暮らしているとしよう。おいしいフランス料理を食べたいと思ったらどうするか。最寄りの都市まで車を走らせ、それなりのレストランを探すというのも一つの方法だ。しかし、確実に本格的なフランス料理を楽しみたいなら、航空券を買ってフランスに飛ぶしかなかった。

 1951年、ル・コルドン・ブルー料理学校の最終試験で落第した(再度挑戦して合格した)ジュリア・チャイルドは、シモーヌ・ベック・フィッシュバッハーとルイゼット・ベルトールに出会った。2人は米国人向けにフランス料理のレシピ本を執筆していたが、出版社は「本物の米国人の声」が必要だと考えていた。チャイルドはこの本の制作に参加することになった。