フットボールもビジネスもコーチング・スキルは同じ

 あなたが会社を経営しているとしましょう。そこでは、従業員たちに「ロイヤルティ」(忠誠心や愛着)といったものがほとんどありません。それどころか、トップのあなたが失脚することを願っている者さえいます。さらに、超優秀でやり手の従業員たちは、常に報酬や特別待遇を突きつけます。

 株主は株主で、長期的視野に欠け、結果のみをすぐ要求してきます。さらに、マスコミまであなたの一挙一動を食い入るように見守り、あれこれと憶測を立てています。このようなかわいそうなトップに、思い当たる節のある方がおられるかもしれません。何を隠そう、私自身がそうなのです。

 アメリカのプロ・フットボール・リーグの監督という立場ゆえ、私はこれまで四方八方からのプレッシャーに耐えてきました。

 もちろん、フットボールとビジネスでは、勝手が違うことは百も承知です。とはいえ私も、トップ・マネジメントの方々が、日々直面されているような問題にも取り組んできたと思います。

 所詮、人は人なのです。フィールドでのプレー、オフィスでのデスクワークと土俵の差こそあれ、組織メンバーのやる気を奮い立たせ、最大限の力を引き出す、そのプロセスでのキー・ポイントに大差はないはずです。

時には残酷であっても対人関係は正直であれ

 これまで、監督としての私の最大の挑戦は、弱小チームを大改革し、優勝を争うようなチームに変身させることでした。運がよかったのか、過去3回この試みに成功しました。

 1回目は、ニューヨーク・ジャイアンツでした。1983年は、私がヘッド・コーチとしてデビューした年でもありますが、それまでのニューヨーク・ジャイアンツは、かろうじて3勝という散々たる結果でした。しかし、その後の6シーズンでは、リーグのトップに躍り出たばかりか、スーパーボウルを2度も制覇したのです。

 2回目は、ニューイングランド・ペイトリオッツです。このチームは、93年に私がヘッド・コーチに就任した当時、過去2年間に3勝を上げただけという惨めな成績でしたが、3年後の96年には、スーパーボウルに出場しました。

 3回目はニューヨーク・ジェッツです。97年に私がヘッド・コーチを引き受けた時、チームは1勝15敗でシーズンを終えたばかりでした。しかし2年後には、AFCチャンピオンシップに出場できました。