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AIを使った「手抜き仕事」が業務の停滞を招く
生成AIツールを導入した企業で、ある矛盾が混乱を招いている。大方の従業員がAIを利用するようにという指示に従っているにもかかわらず、それが真の価値を生み出していると感じている人が、ほとんどいないのである。たとえば2024年、業務プロセスの一部にAIを完全導入した企業の数は倍近く増え、2023年以降、職場でのAI利用も倍増した。しかし、MITメディアラボの最近のレポートによれば、95%の組織が、こうした技術投資に対する、目に見える投資効果を得られていないことが明らかになった。労力と熱意に対し、リターンが見合わないほどわずかなのはなぜなのか。
スタンフォード大学ソーシャルメディア研究所との共同研究の結果、ベターアップ・ラボの研究チームは、可能性のある一つの原因を突き止めた。つまり、従業員がAIツールを使って、見た目だけは問題のない手抜き仕事をすることによって、結果的に同僚の仕事を増やしているのである。AI生成による雑な投稿が氾濫しつつあるソーシャルメディアでは、このようなコンテンツを「AIスロップ」と呼ぶことが多い。筆者らは、職場で起こるこの現象を「ワークスロップ」と名づけ、「一見良質な成果物に見えるが、タスクを有意義に進行させる内容を欠くAI生成コンテンツ」と定義している。
その仕組みはこうだ。AIツールが普及するにつれ、従業員は洗練されたアウトプットを短時間でつくることができるようになった。たとえば、体裁の整ったプレゼンテーション資料や、構成の優れた長文レポート、専門家でない者が作成した明快そうな学術論文の要約、実用可能なコードなどである。しかし、この能力を良質な仕事のブラッシュアップに活用する従業員がいる一方で、実際には役立たない、不完全か本質を外れたコンテンツを作成する従業員もいる。ワークスロップには、作業負担を後工程に転嫁し、受け手に内容の解読、修正、やり直しを強いるという、裏の作用がある。言い換えれば、作成者から受け手へと労力が移動しているのだ。
これを経験したことのある人は、そのような文書を開いた時の混乱と、続くいら立ち(「待って、これはいったい何なの」)、そして送り主がよく考えもせずに、ただAIを使って大量のテキストを生成したのでは、と疑い始める感覚を覚えているだろう。思い当たる人は、まさしくワークスロップの被害者だ。
筆者らが実施中のアンケート調査(誰でも回答できる)によれば、これは深刻な問題といえる。米国を拠点にするさまざまな業種の正規社員1150人中、過去1カ月のうちにワークスロップの被害に遭ったと回答した人は40%に上った。ワークスロップに遭った従業員は、職場で受け取るコンテンツの平均15.4%がそれに該当すると推定している。この現象は、同僚間で最も多く起こる(40%)が、上司が部下から受け取る場合もある(18%)。ワークスロップ全体の16%は、上司から部下やチームへ、あるいはさらにその上の階層から下へ降りている。どの業界でも発生しているが、専門サービス業やIT業界に顕著に見られる。
本稿では、リーダーがワークスロップについて知るべきこと、そしてそれによる業務の停滞を防ぐためにできることを記したい。
ワークスロップ税
機械への認知的オフロード(作業記憶領域を解放する行動)はけっして新しい概念ではなく、テクノロジーが認知能力を奪うことへの不安も同様である。たとえば、2006年に『アトランティック』誌に掲載された技術ジャーナリスト、ニコラス・カーの論文「グーグルを使うと馬鹿になるのか」は論争を呼んだ。認知オフロードに関する主たるメンタルモデルは、文字(書き言葉)に対するソクラテスの懸念(非対話性、記憶力の低下など)にまで遡るが、たとえば「記憶するよりオンライン検索のほうが楽だから、困難な知的作業をグーグルのような技術に委ねる」というものである。
しかし、機械へのそうした思考のアウトソーシングとは異なり、ワークスロップは、機械を使って別の人間に認知作業を転嫁するという点が特有である。ワークスロップを受け取った従業員は、その内容を解読し、ずれや不足を推測する作業を負わされる。やり直しや同僚との気まずいやり取りなど、労力を要する複雑な意思決定プロセスに連鎖的に巻き込まれる。
具体例を挙げよう。






