ESG後退という報道の裏で、多くの企業はサステナビリティを前進させている
Darya Ostrenko/Getty Images
サマリー：企業のサステナビリティは、本当に後退しているのだろうか。筆者らの最新調査によれば、サステナビリティの取り組みを実際に縮小した企業はわずか13％に留まり、85％の企業は現状を維持または加速させている。多くの企業は政治的な批判を避けるために表立った発信を控えつつも、内部では戦略を強化している。本稿では、この調査結果を基に、企業が政治的圧力の下でどのようにサステナビリティ戦略を維持・進化させているのかを明らかにする。

多くの企業はサステナビリティを諦めていない

　報道を見る限りでは、企業のESG活動は後退し、サステナビリティは政治的攻撃に晒され、企業連合は崩壊し、気候変動へのコミットメントは消滅したかのように見える。しかし綿密な調査によって、より複雑な実態が明らかになった。少数の企業が後退している一方で、より多くの企業は方針を維持し、あるいは強化している。彼らはそれを静かに実行しているのだ。

　筆者らは2024年4月から2025年5月にかけて観察的混合研究を実施し、S&P100、ストックス欧州、フォーチュン500の時価総額上位25社を含む、世界75社の戦略的転換を追跡調査した。また、専門家15人へのインタビューで得た知見を組み合わせ、企業がサステナビリティ戦略をどのように適応させているかを明らかにした。この独自のデータセットは、政治的圧力が企業の戦略をリアルタイムでどのように作り変えているかを示す初の包括的かつ時宜に適った分析の一つであり、現在、取締役会や経営陣が直面している状況を鮮明に浮き彫りにしている。

　政治的圧力は実在し、一部の企業が後退していることも事実だ。それにより企業連合の解散を招き、システム全体の進歩に必要な集団行動が損なわれつつある。しかし、個々のレベルでは、大多数の企業がサステナビリティへのコミットメントを放棄していないことをデータは示している。

「グリーンハッシング」という顕著なパターンが明らかになりつつあり、これは長年の投資、コミットメント、進歩によって築かれた価値創造や事業のレジリエンスを、戦略的な沈黙と表面的な対応によって意図的に隠すものだ。もしグリーンハッシングが支配的な戦略となれば、今日の静かな後退は、行動を起こさないという構造的な失敗へと発展しかねない。

　ますます複雑化する政治環境において、ビジネスリーダーは同業他社の対応を真に理解することが重要だ。本分析は、経営幹部がサステナビリティプログラムにおける最近の企業の行動、あるいは停滞について、明確に理解するための指針となる。

表面的な企業行動を理解する

　2025年1月、トランプ大統領の就任後に政治的監視は転換点を迎えた。彼は初期の行政措置で、歴代政権が数十年にわたって実施してきた気候変動対策を廃止する意図を明確にした。州レベルでの調査、大統領令、株主アクティビズムの活発化は、注目を集めるサステナビリティの取り組みがレピュテーションリスクや政治的リスクを伴う環境を生み出した。しかし、筆者らの分析は、報道とは逆に、企業は個々のサステナビリティへの取り組みを劇的に変化させてはいないことを示している。ただし、有意義な企業連合からは離脱している。