AIがコンサルティング会社の人材戦略に及ぼす影響
HBR Staff/AI
サマリー:プロフェッショナルサービス企業は長年、若手を大量採用して雑務を担わせ、生き残った少数の人材をパートナーへ育てるモデルで成長してきた。しかしAIが雑務を代替し、エントリー採用が絞られる中、将来のリーダー育... もっと見る成や従来の収益モデルは岐路に立たされている。本稿では、プロフェッショナルサービス企業における、単なる労働力削減に留まらない抜本的な採用基準の見直しや価格戦略の転換など、AI時代に不可欠な新たな人材戦略について論じる。 閉じる

エントリー人材の採用が細る中、企業は人材育成戦略をどう見直すべきか

 優良法律事務所や経営コンサルティング会社といったプロフェッショナルサービス企業の人材戦略は、長い間シンプルなものだった。すなわち、若くて熱意あふれる有能なアソシエートを大量に採用して、「大量の厄介な仕事」をやらせ、パートナーなどのシニアスタッフが営業活動や戦略立案に専念できるようにする、というものだ。これらのアソシエートは、時間が経つと辞めていく。転職する者もいれば(クライアント企業に転職することも多い)、伝統的に会社のポリシーが家族を持つ従業員への配慮に欠けるために、燃え尽きたり、脱落したりする。そして、ごく少数が、その会社で生涯にわたりキャリアを築く。

 このため、将来パートナーになる見込みがあるかどうかが、採用時の評価基準になることはない。大勢が辞めていくことを前提とした数字のゲームで、そのような評価をする必要はなかった。プロフェッショナルサービス企業は、大量のエントリーレベルから、最終的に数人のパートナーが生まれることを想定している。一流のファームともなると、エントリー100人当たり1人とか2人という割合だ。

 だが、この人材管理アプローチがいま、AIの脅威にさらされている。というのも、多くのプロフェッショナルサービス企業が、雑用の大部分はAIが自動処理できるとの考えから、エントリーレベルの採用を大幅に削減しているからだ。しかし、この新しい採用アプローチが、パートナーを輩出するまでの長期にわたるパイプラインにどのような影響を与えるかについて、現実的なプランはない。

 たとえば、あるトップクラスのリーガルテック企業のCEOは最近、AIのスピードとコスト効率に恐れをなした世界の法律事務所が、夏のアソシエート採用を例年の100人からわずか30人に減らすことを検討していると明らかにした。同じような話は、さまざまな規模や分野のプロフェッショナルサービス企業で浮上している。たとえば、50人規模の特殊経営コンサルティング会社デシバイオは、AIによる効率アップにより、2021年は15人だったエントリーの採用を、2026年は4人に減らす計画だと明らかにした。この間、売上げは2桁の成長を示してきたにもかかわらず、だ。

 AIが労働市場に与えるインパクトに関する疑問の多くは、まだ答えが出ていない。どのような労働者がAIの影響を受け、人員削減はどのくらいの規模になるのか。オープンAIのCEOサム・アルトマンが最近予測したように、プライベートエクイティ(PE)ファームが投資先企業のCEOをAIに置き換える日は来るのか。アルバニアですでに起きているように、政府の閣僚もAIに置き換えることができるのか。

 未来予測のどれがもっとも現実味を帯びているかにかかわらず、AIが労働力の削減をもたらしているのは事実だ。極めて正確な給与データに基づく最近の調査によると、最もAIにさらされている領域では、エントリーレベルの雇用が2022年後半以降、推定13%減少した。技術が進歩して、AI導入率が上昇すれば、このトレンドが続くことは間違いない。アンソロピックのCEOは2025年5月、AIは5年以内にホワイトカラーのエントリーレベルの雇用の50%を削減する可能性があると述べて、今後起こることを、オブラートに包むのはやめるべきだとビジネスリーダーらに呼びかけた。

 エントリーレベルの採用が減り、人材ピラミッドの基礎部分が縮小する中、プロフェッショナルサービス企業は今後、どのような人事モデルを考えるべきなのか。より具体的には、将来パートナーを生み出すパイプラインと、これらパートナーが関連する収益についてどのように考えるべきなのか。

単純作業のためではなく、リーダーシップのある人材を採用する

 将来パートナーになるのは2人だけであることを想定しつつ、100人ものアソシエートを採用する古いモデルにおいて、プロフェッショナルサービス企業は将来のパートナーに必要なスキルを念頭に、厳格な採用活動をする必要はなかった。離職者数が少なく、より人材効率のよいモデルに切り替える時は、将来のポジションに求められる資質を持つ候補者をより慎重に見つける必要がある。その方法については多数の文献があるが、最も重要なのは、古い採用方法に疑問を投げかけ、将来パートナーを登用する時、どのような人材ならば成功するかを示唆する要因を慎重に定義することだ。また、よりエビデンスに基づく採用方法を取るとともに、将来のポジションに何が必要とされるかを、採用候補者に残酷なまでに正直に知らせる必要がある。これは、入社1年目のアソシエートのほとんどがよく理解していないことだ。

 もちろん、AI時代の勝者は、人員を減らすだけでなく、仕事を再設計するだろう。現在の経営コンサルティング会社のいかなるポジションにも、インターネット以前の時代のワークフローを利用するのは不合理だと感じられるだろう。したがって、AIが個々のタスクをより効率的に遂行することを期待するだけでなく、ワークフロー全体をどうすれば変えられるかを考え始めるべきだ。また、部下たちが新しい目標に対して、よりよいパフォーマンスを示せるように、彼らを訓練し、メンタリングし、インセンティブを与える方法を考えなければならない。組織内の技術者は、業界内外でテクノロジーに何が起こっているかを常に学び、それを組織内に持ち込み、アソシエートやパートナーを常に教育すべきだ。ビジネスリーダーは、そのような姿勢を奨励すべきだ。レイサム・アンド・ワトキンス法律事務所は、AIタスクフォースを設置して、このプラクティスを正式に確立した。このタスクフォースは、AIに関する最先端のノウハウを事務所に持ち帰る任務を担っており、社内の「AIアカデミー」でそれをアソシエートたちに教える。

 この変革に取り組む作業が、あまりに困難に感じられる場合は、第三者と協力することを考えよう。オプションとして、法務のスタートアップや大学と協力して、新しいワークフローをテストすることが挙げられる。たとえば、日本でも指折りの保険会社である「あいおいニッセイ同和損害保険」は、オックスフォード大学と提携して、「Aioi R&D Lab - Oxford」を立ち上げた。これは、AI研究をこの業界向けに応用するプログラムで、とりわけ学生がインターンシップを通じて、研究と応用の橋渡しをするのを支援するというものだ。

 同じように、所属する弁護士やコンサルタントや会計担当を、スタートアップや大学と関与させ、学ばせることで、テクノロジー面の洞察力を高めさせる。このような機会にアクセスするために大学のプログラムに資金を提供する必要はない。カナダのアルバータ大学は、アルバータ・マシンインテリジェンス研究所(Amii)と組んで、同様の知識移転で300社以上の企業と提携している。

ルールを破って未来を築く

 AIを前にした時、真のイノベーションは企業を不快な領域へと導くかもしれない。企業のビジネスモデルを覆す可能性さえある。これは人材管理の枠を超えるため、最も調整が難しい。たとえば、多くのプロフェッショナルサービス企業は、業務に要した時間に基づきサービス料金を設定してきたが、AIは明らかにそれを見直す機会をもたらしている。というのも、AIはアソシエートが担当してきた大量の雑務の大部分を処理し始めており、業務に要する時間を大幅に減らしているからだ。こうした問題に対する明白な解決策の一つは、業務に要した時間ではなく、顧客にもたらした価値か、さほどテクノロジーに習熟していない競合他社が請求する金額に基づき、プロジェクトごとに固定料金を請求する方法だ。法務などプロフェッショナルサービスの一部領域では、固定料金のほうがより一般的になり、サブスクリプション型の料金も広がっている。