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イノベーションの資源を浪費してしまう3つの慣行
企業や組織は、特にデータとAIを中心としたデジタル技術への投資をこれまで以上に増やしている。
しかし、今日の環境はますます不安定で予測困難になっている。コスト圧力が高まる中、企業のデジタルイノベーションは「不確実性による一時停止」に陥っている。すなわち、現状維持に後退しているのだ。
このタイミングでデジタルイノベーションの歩みを止めてしまえば、AIなどの技術がもたらす変化のペースに追いつけないだろう。停止するのではなく、デジタルイノベーションをさらに強化しなければならない。とはいえ、イノベーションのための資源が限られている中で、どうすればそれが可能になるのだろうか。
筆者らは10年にわたり、デジタルイノベーションのイニシアティブを主導する人々を研究してきた。彼らのベストプラクティスをより深く理解するために、欧州の6社について詳細な調査を実施し、その結果について、エグゼクティブ教育コースの参加者数十人と議論をした。また、EYとの共同研究として、277社を対象とした定量調査を行った。
これらの研究から、イノベーションの資源を浪費する3つの慣行と、リーダーが浪費を増やさずにイノベーションを加速できる新しいプラクティスを特定した。
1. イノベーションプロジェクトについて、ビジネスケースに基づく資金配分をやめる。
その代わりに実際にもたらすインパクトのエビデンスに基づいて段階的に資金を提供する。
2025年5月に277社を対象に実施した調査では、デジタルイノベーションのプロジェクトを主導する人のうち平均63%が、着手前に完全なビジネスケースを提示して、資金全額を前払いで得るように求められていた。こうした資金調達のアプローチは、デジタルイノベーションの成功のカギを握る要素が、プロジェクト開始前の時点では確認できないという事実を無視している。こうしたプロジェクトは、時間をかけて進化するのだ。
これらの不確実性を無視するプロジェクトリーダーは、資源を浪費するおそれがある。提案された解決策が技術的に実現不可能であったり、もはやユーザーの課題を解決しないものになっていたり、単純に拡張性がなかったりするケースは実際に頻発する。
では、どうすればよいか。あるアプローチを紹介しよう。ノルウェーの郵便・物流事業グループのポステン・ブリングとスペインのエネルギー大手レプソルは、デジタルイノベーションに段階的に資金を提供する「ステージゲート方式」を導入している。
この手法では、最初の段階で必要な最小限のリソースが簡単に獲得できる。そして、プロジェクトの進行に伴って追加のリソースを得るためには、いくつかの段階で成果を証明しなければならない。たとえば、技術的に実現可能か、イノベーションを実際に採用しそうな顧客を見つけたか、拡張性はあるか、といった要素だ。レプソルでは、各ゲートで投資プレゼン番組「シャークタンク」のように社内の意思決定者グループを説得し、次の段階に進むための資金を獲得する。
このステージゲート方式によって、経営陣は大規模な投資の判断を、プロジェクトの成功の確度について十分なエビデンスが出てくる段階まで先送りできる。レプソルでは、一つのプロジェクトの総コストの70%が、スケールを拡張する段階で発生する。段階的な評価により、投資に値するプロジェクトをより多く拡張の段階まで進ませることができる。






