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AI時代のリーダーシップは過去に培った能力の延長にない
先頃『フィナンシャル・タイムズ』紙がS&P500企業の法定開示書類を分析したところ、2024年には374社が決算説明会の中でAIに言及し、その約9割が称賛の言葉を述べていたという。しかし、利益を得る可能性について説明するよう求められると、ほとんどのリーダーはいまだに実現していない「生産性の向上」を漠然と約束するに留まっていた。のみならず、これらの企業の年次報告書では、具体的なメリットよりもリスクに関してのほうがはるかに明確に述べられていた。
なぜだろうか。筆者らの一人が300人の取締役を対象とするプロジェクトで突き止めたように、AIの試験運用が成果を上げるかどうかは不確実なうえに、AIの使用を恐れる従業員がその潜在能力を活用せず、AIプロジェクトが組織の働き方と価値創出のあり方に対応していないからである。
新技術から価値を引き出せない原因が、技術そのものにあることはめったにない。むしろ通常は、技術を自社の提供価値と整合できていないこと、そして技術を活用して組織を変革する機会を逃していることにある。その根底にはリーダーシップと組織能力の課題がある。取り組みが失敗するのは、組織が自分たちのプロセスを適応させず、チームが仕事のやり方を変えないからなのだ。
筆者らは学者として、デジタル・トランスフォーメーションとリーダーシップに関する最新の研究を追跡し、それらの知見を、我々の講座の経営幹部がリアルタイムで取り組んでいる課題と比較する。そして彼らが持つスキル、組織が彼らに課している要求、効果的にリードするために必要な能力の3点の間のギャップを研究している。
この活動から学んだのは、経営幹部が生成AI時代に効果的にリードするために必要なスキルセットは、過去に彼らを成功へと導いてきたスキルと必ずしも同じではないということだ。本稿では、筆者らが学者および実務家としての活動をもとに不可欠であると特定した5つの能力について論じる。各能力は、今日のリーダーが果たすべき異なる役割に対応するものである。
組織の境界をまたいで橋渡しをする
AIに習熟するには、アナリストのレポートを読んだりニュースの見出しに目を通したりするだけでは不十分だ。習熟度はネットワークとの触れ合いを通じて高まる。より多様なネットワークに属している人は、他者と重複しない特権的な情報へのアクセスを享受するため、閉鎖的な集団にいる人よりも革新的であることが研究で示されている。
社会学者エベレット・ロジャーズの『イノベーションの普及』をはじめとする普及学の古典的研究においても、技術の採用が広がるのは人々が信頼できる仲間による使用を目にし、かつその技術が自分に具体的にどう適用されるのかを理解できる十分な暗黙知を得た時であることが示されている。
したがって幹部は、業界、規制当局、スタートアップ、技術者の垣根を越えて人間関係を築き、AIのチャンスとリスクについて議論されている会話に参加する必要がある。筆者らが担当するエグゼクティブ講座では、これが日常的に展開されている。より多くの経験を持つユーザーが、AIのメリットと落とし穴も含め、目にしていることを他者に教える。
経営幹部はさらに、自分のチームをこの種の分野横断的な交流に意図的に触れさせる必要がある。たとえばサティア・ナデラはマイクロソフトのCEOに就任すると、これまで経営陣のみで行われてきた年次の戦略オフサイトミーティングに、同社が買収した小規模テック企業のCEOたちを招待した。多岐にわたる会話の流れに身を置くことで、幹部は新たな知見を経営会議の場に持ち帰る自信を高める。それが彼らをバウンダリースパナー(境界連結者)にするのだ。
組織を再設計する
生成AIは、組織がその活用に向けて再設計されない限り価値を生まない。生産性の向上は技術そのものからではなく、プロセス、インセンティブ、組織構造の補完的変革から生じることが数十年にわたる研究で示されている。企業は古くなったワークフローにAIを後づけし、大した見返りを得られないケースがあまりに多い。






