読者に聞いた、仕事や生き方に影響を与えた「ドラッカーの言葉」
サマリー:ピーター F. ドラッカーは、2025年11月11日で没後20年を迎えたが、いまなおその言葉の数々をビジネスや生き方の指針とする人は少なくない。そこで『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』は、読者に対し、ドラッ... もっと見るカーの著書や論文などを読み、影響を受けた論文やフレーズ、それにまつわるエピソードなどを尋ねた。本稿では、そうして得られた読者のエピソードを紹介する。 閉じる

ドラッカーの言葉が仕事や人生の指針に

 ピーター F. ドラッカーは、2025年11月11日で没後20年を迎えたが、いまなお数多くの経営者やビジネスパーソンが、その言葉の数々をビジネスや生き方のヒントにしている。

 そこで今回編集部では、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)2025年12月号の特集「P. F. ドラッカー 真摯さとは何か」を企画するに当たって読者にアンケートを実施し、ドラッカーの著書や論文などを読み、影響を受けた論文やフレーズ、それにまつわるエピソードなどを尋ねた。

 本稿では、ドラッカーに影響を受けたという読者のエピソードを「経営・マネジメントの実践」「個人の成長とキャリア」「チームや組織運営の改善」「マネジャーとしての資質」に分けて紹介する。

※アンケートは、DHBR電子版会員を対象に、2025年7月20日~8月3日に実施した。

「経営・マネジメントの実践」への影響

 主に経営層の読者からは、ドラッカーの思想や言葉を、経営判断の軸や重要な経営ツールとして活かしているという声が寄せられた。ドラッカーの名言として有名な「企業の目的は顧客の創造である」や「企業は社会的組織であり、共通の目的に向けた活動を組織化するための道具である」といった言葉は、理論と実践を行き来しながら苦悩する経営層を支える指針になっているようだ。

 以下では、回答していただいた読者の声を紹介しよう。

ドラッカーの著作の中で特に印象深いのは、『マネジメント――課題、責任、実践』にある「企業の目的は顧客の創造である」という言葉です。このフレーズは、企業活動の本質を鋭く突き、利益追求に偏りがちな現代経営に対する重要な警鐘です。また著書『イノベーションと企業家精神』では、「イノベーションはリスク回避ではなく、変化を機会として活かすもの」と説き、自己革新の重要性に大きな影響を受けました。ドラッカーが日本の経営者に「人を資源として尊重せよ」と助言したエピソードは有名で、多くの日本企業が人的資本経営へシフトする契機となったことは注目すべきでしょう。このような思想と実践の融合が、いまも生き続けるドラッカーの哲学だと感じます(60代以上男性、神奈川県、専門職)

「企業活動の使命は、顧客の創造である。この絶え間ない活動により、永続がもたらされる」。経営の実践をする上で、得てして利益、先にありきと考えがちになってしまうが、目先の利益にばかりにとらわれてはならないことは教訓になっております(60代以上男性、神奈川県、医療・福祉関連サービス、役員)

ドラッカーの言葉では、「マネジメントとは組織に成果を上げさせるもの」という定義が一番心に残っており、「成果を上げて成長する」というのが当社のクレドになっています。私は銀行員から現在の会社に転職したのですが、当社の成果を重視する思想、成長を重視する思想は、非常に分かりやすく、自分にフィットしています(50代男性、東京都、製造業、総務/人事、役員)

著書『現代の経営』にある「企業とは社会の機関であり、社会的責任を果たすべき存在である」という一節が印象に残っています。ある年、地域の小学校で金融教育の授業を職員が自主的に実施したことがありました。業績には直結しませんが、地域との信頼関係を築くうえで大きな意味がありました。「成果」だけでなく「貢献」をどう捉えるか、経営判断の軸を問い直すきっかけとなり、ドラッカーの言葉が現実の場面で生きる実感を得ました(40代男性、北海道、金融/証券/保険、役員)

ドラッカーの5つの問い「われわれの使命は何か」「われわれの顧客は誰か」「顧客にとっての価値は何か」「われわれにとっての成果は何か」「われわれの計画は何か」は、経営者にとって極めて重要な経営ツールだと思います(60代以上男性、東京都、専門サービス、経営者)

「個人の成長とキャリア」への影響

 ドラッカーの言葉は、個人の生き方やキャリアに悩んでいる人にも指針を与えてくれる。特に、「何をもって憶えられたいか」というドラッカーの問いかけや「成功への道は、みずからの手で未来をつくることによってのみ開ける」といった言葉は、人生の分岐点において判断の軸となっている。

数十年前に『プロフェッショナルの条件』を読んでからドラッカーの著作を読むようになりました。(ドラッカーの言葉の)中でも「何によって憶えられたいか」という問いかけは、自分の生き方、判断の指針となっており、厳しい状況での、もうひと踏ん張りにつながっていると思います(50代男性、東京都、商社、経理/財務、部長職以上)

影響を受けたフレーズは、「成功への道は、みずからの手で未来をつくることによってのみ開ける」です。所属していた会社の大きな変化の中で、これからのキャリアで悩んでいた際、「自分自身のパーパスは何か」「自分がどうありたいか」「どのような価値を提供したいか」「自分を使って何をしたいか」を問い、行きついた答えがこれでした(50代女性、東京都、製造業、総務/人事、部長職以上)

『プロフェッショナルの条件』にある「成果を挙げるには貢献に焦点を合わせなければならない。手元の仕事から顔を上げ、目標に目を向けなければならない。組織の成果に影響を与える貢献は何かをみずからに問わなければならない」という言葉が印象に残っています。現在、多くの企業の方々が、目先の利益だけにとらわれず、「社会貢献」という考え方を学校現場(生徒たちに)にも教えてくれています(50代男性、北海道、大学/教育/研究機関、専門職、一般社員・職員)

「チームや組織運営」への影響

 人のマネジメントには、常に複雑な課題がついて回る。それを理解したうえで、人事という仕事を理解したり、チームのメンバーと対話を続けたりする人間的な姿勢を持つことの重要性をドラッカーの思想から学んでいる読者もいた。

論文「人事の秘訣:守るべき5つの手順」から「これらのプロセスをすべて踏んでも、人事の失敗はなくならない。しかも、もともとリスクがつきものという種類の人事がある」。人事の難しさであり、失敗した場合には、元に戻すようにするということを学んだ(50代男性、東京都、製造業、経営企画/事業開発、部長職以上)

振り返りを定期的に行う重要性に関する話は、自分にとって一つの社会人として仕事をしていく上で大事にしたことである。管理職になった際にも、振り返りの重要性はメンバーに繰り返し話した。また、その後ソフトウェアの世界では、振り返りはごく普通にやることになってきたと思っている。ドラッカーは「人」という存在を大事にしていくことを、いろいろなところで語っていたと私は捉えており、社員一人ひとりと「人間」として向き合って一緒に仕事をしていく姿勢につながった。たとえ、意見が対立する人でも、その人も一人の人間であるとして向き合っていくことは大変だったが、長い目で見て良き友人になりえたこともある(60代以上男性、東京都、情報処理/ソフトウェア、製造/生産/検査、専門職)

組織の目的は「凡人をして非凡をなさしめること」というように、仕組みをつくることによって、普通の人でも天才のような働きをすることができる、という根本を類い稀なる表現をしているところが印象に残っている(50代男性、愛知県、大学/教育/研究機関)

「マネジャーとしての資質」への影響

 今回の特集のテーマである「真摯さ」(インテグリティ)という言葉に影響を受けたという読者も多かった。マネジャーに最も重要な資質こそがインテグリティであり、欠かせないものという認識を持っていた。企業でインテグリティ研修を導入したという読者もいた。

著書『マネジメント』の中に、「マネジャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくても学ぶことができる。しかし、学ぶことができない資質、後天的に獲得できない資質、始めから身につけていなければならない資質が、一つだけある。才能ではない。真摯さである」と記載がある。真摯さ、つまりインテグリティがない人をマネジャーにしないということだ。これはまさに、マネジメントの新たな役割に通ずると思う。現に、我が社でも、VUCAの時代を生き抜くべくマストスキルとして、全社員向けのインテグリティ研修を導入。浸透、定着に向けた活動に取り組んでいる。中長期的な視点で取り入れた研修のため、風土として定着させるには時間がかかるのは承知の上だが、しっかりと定着させていきたい(50代男性、東京都、金融/証券/保険、総務/人事、部長職以上)

真摯であること。関係性をマネジメントすること。器官という表現を使うところが好きです。すべてがつながっているという表現であり、その関係性が成果に大きく関わると思っているからです(40代女性、東京都、製造業、購買/資材/物流、課長職)

一番記憶に残っている言葉は、「真摯さ」である。ドラッカーが言う「真摯さ」の意味としては、強い信念と正義の原則に基づいて、「一貫した正直さ」と「一貫した誠実さ」を持って仕事(組織)に貢献すること(仕事に取り組む姿勢)と言えるのではないかと理解している。そして、この「真摯さ」がマネジャーに必要な(最も重要な)資質であり、マネジャーにとって「真摯さ」の欠如は許されないと理解している(60代以上男性、神奈川県、製造業、デザイン/設計、一般社員・職員)

* * *

 DHBR2025年12月号の特集「P. F. ドラッカー 真摯さとは何か」では、「経営と人生の指針」というサブタイトルをつけている。それは、ドラッカーの思想や言葉が、経営やビジネスだけではなく、個人のキャリアや人生の指針にもなっているからだ。今回のアンケートに寄せられたエピソードからも、多くの読者がドラッカーによって多面的な影響を受けていることがよくわかった。仕事やキャリア、人生について迷うことがある方は、ぜひ一度、ドラッカーの著作を手に取ってみてはいかがだろうか。