ミドルマネジャーは職場の誰よりも心理的安全性を感じていない
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サマリー:昨今、職場における心理的安全性が重視されているが、筆者らの研究において思わぬ死角があることがわかった。実はミドルマネジャーが社内で誰よりも心理的安全性を感じられていないというのだ。本稿では、大規模調査に基づき、中間管理職の心理的安全性が低い構造的要因を特定するとともに、経営層が講じるべき具体的な解決策と、失敗を学習機会へと変えるための実践的なアプローチを紹介する。

職場における心理的安全性の思わぬ死角

 職場における率直なコミュニケーションというテーマに関して、ほとんどのリーダーは、現場の従業員が安心して発言できる環境づくりに重点を置いている。そのような環境が重要だという考え方は、ハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・エドモンドソンが「心理的安全性」という言葉とともに普及させた。

 心理的安全性が高い状況とは、一言で言えば、過ちを認めたり、懸念を表明したりしても、罰せられることがなく、恥をかかされることもないと思える状況のことだ。この四半世紀ほどの間、心理的安全性は、リーダーシップの実践法を説く書籍や組織文化関連の取り組みで定番のテーマになった。

 しかし、筆者らの最近の研究によると、職場での心理的安全性に関して思わぬ死角があることがわかった。その死角とは、ミドルマネジャーの心理的安全性だ。ミドルマネジャーたちは、社内で誰よりも心理的安全性を感じられていない。部下であるチームのメンバー以上に、心理的安全性の乏しい状況にあるのだ。

 筆者らは、このテーマに関して1160人のマネジャーを対象とした世界規模の研究を行っている(研究は現在も継続中)。調査対象者のほとんどは、従業員数5万人以上の大企業に所属しているマネジャーだ。業種は、サービス、金融、製造、公益事業など、多岐にわたる。この研究によると、ミドルマネジャーたちの心理的安全性のスコアは、100点満点中68.0点だった。最高幹部クラスのスコアは72.7点で、ミドルマネジャーとは4.7点の開きがある。ミドルマネジャーとその直属の部下たちの間にも、心理的安全性の格差が見られる。部下たちのスコアは、ミドルマネジャーたちより4.2点高いのだ。

 このスコアがとりわけ低いのは、昇進したばかり(具体的には役職に就いて3年未満)のミドルマネジャーたちである。この人たちは、長い経験を持つミドルマネジャーたちと比べてスコアが5点近く低い。新人のミドルマネジャーは、孤独で厳しい適応のプロセスを経験しているといえそうだ。

 こうした点は、単に興味深い発見というだけに留まらず、極めて大きな意味を持つ。ミドルマネジャーは、組織において戦略と実行をつなぐ留め金のような存在だ。組織の中枢神経系と言い換えてもよいだろう。ミドルマネジャーは、問題を察知し、それに関するシグナルを伝達し、対応を調整することを通じて、その企業のアジリティを維持する役割を担っているのだ。

 ミドルマネジャーたちが懸念を表明したり、過ちを認めたりすることを安全だと感じられない状況では、こうしたフィードバックループが断ち切られてしまう。重要な情報がトップに届かなくなり、問題が把握されないままになる。その結果、システム全体が揺らいだり、つまずいたりし、リスクが未対処のまま置き去りにされる。

ミドルマネジャーの心理的安全性の低さによる隠れたコスト

 ミドルマネジャーの心理的安全性が乏しいと、その影響は組織全体に波及し、パフォーマンスを静かに蝕む。以下では、その具体的なパターンをいくつか紹介しよう。

・トップが失敗に気づかない。ミドルマネジャーたちは、失敗を認めると自分のキャリアが危うくなるのではないかと恐れて、悪いニュースが上級幹部たちの耳に届かないようにすることが多い。トラブルの早い段階での兆候が見えにくくされたり、隠されたりする。こうして、リーダーは、よいニュースしか届かない状態、言ってみれば「グッドニュース・バブル」の中にはまり込んでしまう。

・可謬性のギャップ。ミドルマネジャーたちが率先して過ちを率直に認めないと、その部下たちも同様の行動を取るようになる。失敗を犯したり、好機を活かせなかったりしても、黙っているようになるのだ。そうなると、問題解決の文化ではなく、隠蔽の文化が育まれてしまう。

・イノベーションの減速。実験にはしばしば、失敗が付き物だ。ところが、マネジャーが失敗を恐れると、創造的な問題解決は停止してしまう。