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エイミー C. エドモンドソンに聞く
心理的安全性の重要性
上司に残念な報告をしたい人はいない。しかしながら筆者は、自身が携わっていたプロジェクトが期待したほどの成果を上げられなかったため、まさにその難しい役目を果たさなければならなかった。筆者は、チームが仕事の主導権を握るべきだと強く主張しており、自分でもこのプロジェクトに多くの時間を費やし、他のメンバーにもそうするよう説得していた。
データを上司に提出した時、筆者は不安だった。投資が未回収であること、数字が予想を下回ることを、そのデータは示していた。上司がいらいらしたり、怒ったりしても仕方がないと思っていたし、「何が悪かったのか」とか「どうすれば防げたのか」(いずれも答えは用意していた)くらいは聞かれるだろうと思っていた。
ところが上司は一言、こう尋ねた。「何を学びましたか」と。
いまとなっては、上司がしていたのは心理的安全性を高めることだったと理解している。学びこそが重要であり、筆者(や上司のチーム)の将来のパフォーマンスがそれにかかっていることをわかっていたのだ。心理的安全性は、チームにも、それを率いる人にとっても、重要な概念である。HBRでも何度も取り上げてきた。それでも、誰もが知っているわけでも、十分に理解しているわけでもない。
そこで、『恐れのない組織』の著者であり、「チームの心理的安全性」という言葉を生み出したハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー C. エドモンドソンに、あらためて説明を乞うた。この言葉がどのように誕生し、どのように進化してきたのか。そしてもちろん、自分のチームで心理的安全性を高めるにはどうしたらよいか尋ねた。
心理的安全性とは何か
まず、定義から始めよう。チームの心理的安全性とは、チームのメンバーが、リスクを冒し、自分の考えや懸念を表明し、疑問を口にし、間違いを認めてもよく、そのいずれをもネガティブな結果を恐れずにできると信じていることである。エドモンドソンに言わせれば、「率直であることが許されるという感覚」である。
この概念にたどり着いたのは、エドモンドソンが博士号を取得するための研究をしている時だった。彼女は、病院で起こるミスとチームワークの関係を研究しており、効果的なチームほどミスが少ないという結果が出ることを予想していた。ところが、チームワークがよいと回答したチームほど、エラーが多く見られた。データを詳細に分析すると、優秀なチームほどミスをすすんで報告している──報告しても安全だと思えるから──のではないかと考えるようになり、その仮説を検証するために追跡調査を行った。
チームの心理的安全性にとって「チーム」ということが重要である。「集団レベルで起こるこの現象は、集団の学習姿勢を左右するものです。そのため、チームのパフォーマンス、ひいては組織のパフォーマンスに影響を与えるのです」と彼女は言う。エドモンドソンが説明してくれたように、安心感や意見を述べる意欲はたしかに個人のレベルでも感じたり経験したりするものではあるが、個人の特性ではなく「集団の創発的な特性」なのだ。実際、ほとんどの研究で、密接に協力して働く人々の心理的安全性レベルは、他のチームのメンバーと比べると近似していた。
なぜ心理的安全性が重要なのか
第1に、心理的安全性によって、チームメンバーは自分の貢献が重要であると感じ、報復を恐れることなく発言できるため、エンゲージメントとやる気が向上する。第2に、心理的安全性はよりよい意思決定につながる。なぜなら、メンバーは意見や懸念を安心して口にすることができ、チームにおいて多様な見解に耳が傾けられ、検討されるようになるからである。第3に、チームメンバーが互いの失敗を共有し、そこから学ぶことができるため、継続的な学習と改善の文化が育まれる(冒頭の話で筆者の上司がやっていたことである)。
チームのパフォーマンス、イノベーション、創造性、レジリエンス、学習への影響など、これらのメリットはすべて長年の研究で証明されている。特にエドモンドソンの最初の研究とグーグルで行われた研究がよく知られている。
プロジェクト・アリストテレスと呼ばれるこの研究は、グーグル全体にわたるチームの効果性に影響を与える因子を突き止めることを目的に実施された。30以上の統計モデルと数百の変数を用いたそのプロジェクトは、「誰がチームのメンバーであるか」よりも「チームがどのように協力しているか」のほうが重要であると結論づけられた。そして、最も重要な因子は「心理的安全性」だった。
さらに研究を進めた結果、心理的安全性がない状態は、ストレス、燃え尽き症候群、高い離職率など、従業員のウェルビーイングや組織全体のパフォーマンスに悪影響を与えるといった驚くべきマイナス面があることがわかった。