心理的安全性という概念は
どのように発展してきたか
エドモンドソンに、彼女が初めて「チームの心理的安全性」を提唱してから20年の間でこの概念がどのように変化したか尋ねた。研究者らによって、重要なニュアンスがわかってきているという。
たとえば、心理的安全性は、従業員の裁量権が求められる職場環境でより重要になるようだと彼女は説明してくれた。「成果や作業がはっきりと定められていない状況、つまり創造的なことや新しいこと、本当に協力的な仕事をしている時ほど心理的安全性とパフォーマンスの関係は強くなります」。エドモンドソンはまた、ハイブリッドワークでは、マネジャーが心理的安全性を広くとらえ直すことが必要だと指摘している。
さらに、彼女や他の研究者は、心理的安全性とチームの多様性との相互作用についても研究している。エドモンドソンとINSEADの組織行動学教授であるヘンリック・ブレスマンによる新しい研究では、心理的安全性が高いチームにおいて、専門知識の多様性とパフォーマンスとが正の相関関係にあることが明らかにされた。彼らの研究は、一業界(医薬品開発)における一例にすぎないが、「心理的安全性がチームにおける多様性を実現するカギになる可能性がある」ことの重要な証明となっている。
自分のチームに心理的安全性があるかどうかは
どうすればわかるのか
これは、多くのリーダーの頭にある疑問だろう。エドモンドソンは、心理的安全性に関する意識を評価できる7項目の簡単なアンケートを開発した(このアンケートを自分のチームで実施したい場合は、エドモンドソンのウェブサイトに登録して利用できるツールがある)。
質問への回答によって、メンバーがどの程度、心理的安全性を感じているかがおおよそ把握できるだろう。
1. このチームでは、ミスをしても責められることはない。
2. このチームのメンバーは、問題点や難しい課題を提起することができる。
3. このチームでは、人と違うことを受け入れることもある。
4. このチームでは、リスクを冒しても安全性が保たれる。
5. このチームでは、他のメンバーに助けを求めやすい。
6. このチームでは、意図的に私の努力を損ねるような行動を取る人はいない。
7. このチームのメンバーと一緒に仕事をしていると、私にしかないスキルや才能が評価され、活かされる。
しかし、エドモンドソンは、スコアは決定的なものではなく、重要なのは差異であると注意を促している。「アンケートの回答者は、自分の期待値と照らし合わせて回答しているのです。たとえば『はい、助けを求められます』と答えたとしても、それは『こうあるべきだ』と考えていることとの相対なのです」。そして、アンケートで得たデータは、マネジャーがチームの体験を振り返り、その体験を改善するために何を変えることができるかを前向きに考えるために活用するよう勧めている。そこで、次の重要な質問につながる。つまり、心理的安全性を育むために何ができるのか、である。
心理的安全性を高めるにはどうしたらよいか
エドモンドソンは、「それ(心理的安全性を育むこと)は科学というより魔法に近い」と指摘し、「その組織風土は私たちが共同でつくり上げるもので、時には不思議な力が働くこともある」点をマネジャーは忘れてはならないと言う。
発言のしにくさやだんまりが目立つチームで仕事をしたことのある人なら、それを覆すことがいかに難しいかがわかるだろう。
職場の心理的安全性を高めるには、優れたマネジメントの実践が必要だ。たとえば、ノルマや目標を明確にして、予測可能性や公平感を与える、オープンなコミュニケーションを奨励して、従業員の声に積極的に耳を傾ける、チームメンバーが「サポートされている」と感じられるようにする、発言に感謝し、謙虚に受け止めるなどである。
エドモンドソンは、さらに次のような戦術を挙げている。