従業員の声が重要な理由をはっきりと伝える

 よけいなことは言わないで黙っているほうが安全だ――。ほとんどの人はそう思って、自分の考えや意見を内に留めようとする。「そのような本能を打ち消すために、従業員が発言しやすい環境を整えなければなりません」とエドモンドソンは言う。なぜ従業員の声を聞く必要があるのか、なぜ従業員の視点や意見が重要なのか、そしてそれが仕事の成果にどう影響するのかを、明確かつ具体的に説明しよう。

自分の非を認める

 リーダーが率先して自分の犯した失敗を打ち明け、そこからどのような学びを得たかを自信を持って話せば、メンバーもそれに倣おうとするだろう。脆弱性を当たり前のものにし、チームに求めたい行動をみずから模範となって示すことが重要だ。つまり、相手を尊重すること、フィードバックを受け入れること、リスクを引き受けることなどである。

積極的に意見を求める

 何も言わずともメンバーは自分の意見を言ってくれる、または意見を求められていることを理解している、と思い込んではいないだろうか。「口に出して意見を求めましょう」とエドモンドソンは言う。そして、「あなたの目にはどう映っていますか」「これについてはどのように考えていますか」「このアイデアについて、あなたはどのような立場ですか」などの質問をオープンにするよう勧めている。

生産的に対応する

 意見を求めていること、失敗を犯しても問題ないことを伝えることはできても、相手が非難されている、あるいは相手にされていないと感じている限りは、応えてくれないだろう。そこで、誰かが突飛な考えや厳しい評価を口にした時、自分はどのように答えているだろうかと自問するよう、エドモンドソンは勧めている。そして、「ありがたく前向きにとらえること」だと言う。

 また、「非難」を「好奇心」に置き換えよう。作家でコーチのローラ・デリゾンナは、このように書いている。「非難されていると感じた部下の目には、あなたは牙をむいたトラのように見えてしまう。(中略)非難の代わりとなるべきは、好奇心である。もしあなたが、相手の考えなどお見通しだと思っているなら、対話の準備ができていない証拠だ。自分がすべての事実を知っているわけではないという前提で、学ぶ態度を取ろう」

よくある誤解とは何か

 心理的安全性に関して一般的に誤解されていることはないか、とも尋ねたところ、エドモンドソンは以下の2つを挙げた。

「ただ優しく接すればいい」

 職場の心理的安全性を高めることは、「優しく接する」ことではないとエドモンドソンは言う。実際、気遣いはあるが心理的安全性のない職場は数多くある。気を遣い、遣われすぎて、率直に話せなくなっているのだ。「残念なことに、職場の『優しさ』は、『はっきり物を言わない』のと同義である場合が多いのです」

「心理的に安全な環境であるためには、居心地がよくなければならない」

 「心理的安全性とは常に居心地がよいことであり、誰かを不快にするようなことを言ってはいけないし、それは心理的安全性に反することだと思っている人が非常に多いのです」とエドモンドソンは言う。これはまさしく勘違いだ。

 何かを学んだり、失敗したり、ミスを指摘したりすることは、たいてい不快なことだろう。弱さを見せることには、リスクを感じるだろう。重要なのは、そうしたリスクを安全な環境、つまり対人関係にマイナスの影響のない環境で取れるかどうかである。「何かを達成するためには、その途中に不快感を伴うものです」。彼女はそれをオリンピックの体操選手に例える。練習では自分と自分の肉体を追い込み、リスクは冒すが、あくまでケガをしない範囲に留める。「率直さは難しいものですが、率直さがないのはさらに悪いことです」

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 筆者が敗北感を味わっている時に上司が放った一言は、筆者に大きな影響を与えた。そのたった一つの質問──「何を学びましたか」──で、自分の失敗を思いやりや理解を持って見るようになり、誰かが失敗をした時の相手への接し方も変わった。筆者の経験からもわかるように、リーダーが心理的安全性を優先することにより、現在そして将来にわたって成功するチームが育つのである。


"What Is Psychological Safety?" HBR.org, February 15, 2023.