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働き続けられない脳の部位にノンストップの稼働を強いている
職場には生産性向上ツールやパフォーマンスフレームワーク、タイムマネジメントに関するハック情報が氾濫している。それにもかかわらず、多くのリーダーが相変わらず、一日の終わりに「圧倒された」「精神的に疲労困憊だ」と感じている。その原因は必ずしも業務量だけではない。筆者は、著書のための調査や、神経科学に基づくコンサルタントとしてグローバル企業の支援、大学との協働を行う中で、多くの問題は脳の使い方にあることを発見した。
大半のリーダーは、脳の特定の部位を過度に使用している。集中、計画、自己制御、意思決定といった高次機能を担う前頭前野である。
だが、前頭前野の働きには限界がある。疲労しやすく、過剰な負荷に弱く、注意を削ぐものやストレスに非常に敏感なのだ。ペースの速い組織において、多くのリーダーが苦しんでいるのは時間が足りないからではなく、認知面の処理容量を使い果たしているためだ。
これは個人の失敗ではなく、システム設計上の問題である。私たちは、本来、常に作動し続ける仕組みにはなっていない脳の部位にノンストップのパフォーマンスを要求するような働き方を構築してしまった。
現代の職場環境は、注意を散漫にし、思考を細切れにして、終始急かされているような状態に人々を押しやっている。しかも多くの場合、無意識のうちに、だ。呼吸法やタイムブロッキングのような個別のテクニックにも一定の効果はあるだろうが、意志の力だけでシステムをつくり替えることはできない。
良質な思考を支えるために、リーダーは個人的な工夫の域を超えて、環境そのものを再設計する必要がある。特に求められるのは、注意、行動、協働を引き出すような空間だ。意図的か否かはともかく、どのような職場にも多くの「認知的ナッジ」が存在しており、それが人々の集中や絆、意思決定のあり方を形づくっているためである。そして、そうしたナッジは、意図的に設計されていないと、目指すべきパフォーマンスの足を引っ張ることになりやすい。
認知的多様性がいかに重要か
解決策は、集中力を高めることでも、根性を見せることでもない。重要なのは、強力なのに十分に活かされていないシステムを含む脳全体を活用する方法を学ぶことだ。たとえば、情報を統合する力や創造性、洞察を支える「デフォルト・モード・ネットワーク」(DMN)、物事の関連性や感情のニュアンスを察知して、急ぎの用件に見えることと本当に重要なことを見分ける「サリエンスネットワーク」などがこれに当たる。
これらのシステムを戦略的に活用できれば、リーダーはイノベーション能力を磨き、感情面の共感力を高め、プレッシャーの強い状況でもよりよい意思決定を下せるようになる。
逆に、タスク効率を重視し、認知的持続可能性に配慮していない環境は、「下流」に以下のような影響を及ぼす。






