「自分にできるなら部下にもできる」と考えるリーダーが危険な理由
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サマリー:リーダーは、無意識の思い込みで、チームメンバーの可能性を制限している場合がある。特に「自分にできるなら部下にもできる」という自分基準の高い期待や思い込みは、善意ゆえに周囲の成長や意欲を損うおそれがある。効果的なリーダーシップには、批判よりも支援を行い、個々の現状に向き合う姿勢が欠かせない。本稿では、リーダーが陥りがちな「隠れたブロッカー」を特定し、チームの能力を最大限に引き出すための思考の転換法と、場面別の具体的アプローチを解説する。

自分自身と同じ水準の成果を周囲に期待していないか

 どのようなリーダーも、決定を下したり、他者と交流したりする時、見えない思い込みの影響を受けている。それは大きな前進を促す思い込みの場合もあるが、「隠れたブロッカー」と筆者が呼ぶ思い込みで、知らずしらずのうちにせっかくの善意が裏目に出る場合もある。リーダーの立場にある時、こうした制約的な思い込みは自分の成長を妨げるだけでなく、チームメンバーの可能性も制限してしまう場合がある。

 経験豊富なシニアリーダーにとって最も危険なことの一つは、「私にできるのだから、あなたにもできる」という隠れたブロッカーだ。これがあると、直属の部下やチームメンバーが、あなたと同じようにタスクを引き受けるだけの知識や経験があると想定し、あなたが自分に課すのと同じレベルの仕事を期待してしまう。

 表面的には、やる気を起こさせる(「あなたのことを信じているよ。あなたにもできるはずだ」)が、実のところチームにとってはフラストレーションの原因になったり、相手のポテンシャルを停滞させたりすることになりかねない。

 筆者がコーチングを担当した上級管理職のロビン(仮名)の例を考えてみよう。ロビンは優秀な最高収益責任者(CRO)で、次期CEOの有力候補になっていた。資金調達能力や、会社のミッションを伝える能力、そしてそのインパクトを拡大する能力が高く評価されていたため、後継者候補に名を挙げられるのは当然だった。ところが、組織のステークホルダーからのフィードバックで、深刻な懸念が明らかになった。ロビンは自分に対して極めて高い水準を要求するが、周囲にも同レベルの成果を期待したのだ。誰かの仕事が期待を下回ると、いら立ちと批判を露わにするため、チームは自信を失い、誰もが不満を募らせ、やる気を失っていた。

 このフィードバックはロビンにとって驚きだった。自分に対するものと同じレベルの期待をチームに抱くことは、最高のパフォーマンスを引き出し、やる気を起こさせると思い込んでいたからだ。しかしよく考えてみると、自分が他者に期待する水準は、何ら客観的な尺度に基づいておらず、自分の能力と自分に対する非常に高い要求に基づいていることに気がついた。チームメンバーが自分と同じスピードや結果を示せなかった時も、サポートや指導をするのではなく、厳しく批判していた。それは彼女のチームの足を引っ張っただけでなく、ロビン自身の成長と昇進の機会も制限した。

 ロビンのエピソードに、あなたも思い当たるところはないだろうか。以下に挙げる兆候は、「私にできるのだから、あなたもできる」の隠れたブロッカーが、あなたの有効な働きを妨げていることを示唆している可能性がある。

1. あなたは自分に対して高い水準を要求しており、他の人もそれを満たさないといらいらする。

2. フィードバックが詳細すぎるとか、批判的すぎると言われたことがある。

3. 他人の欠点が目につきがちで、それを本人に指摘する責任があると感じる傾向がある。