営業担当者は「対面の価値」を軽視してはならない
mediaphotos/Getty Images
サマリー:B2Bセールスでは購買段階ごとにデジタルと対面を使い分けるのが定石だが、効率化の追求は成長機会を逃すリスクをはらんでいる。ニーズが曖昧な局面でこそ、対面の対話が深い信頼と洞察を生み出すからだ。本稿では、デジタル偏重の脆弱性を指摘したうえで、対面での時間を「戦略的投資」と捉え直し、顧客との関係性を卓越したものへと変えるためにリーダーが実行すべき具体的なアクションプランを提示する。

戦略的な対面コミュニケーションが顧客への影響力を高める

 B2Bセールスにおける従来の通念では、チャネルは購買フェーズと連携させるべきであるとされている。ウェブサイトなどのデジタルチャネルは、認知度を高め、潜在顧客に対して大規模に情報提供を行うのに適している。ズーム会議などのバーチャルチャネルは、広く分散したステークホルダーを一堂に集める効率的な手段だ。そして、対面でのコミュニケーションは、複雑なソリューション設計や重要な交渉のために限定すべきである。企業は顧客に対し、関係性の維持という包括的な目標を達成するため、デジタルダッシュボードの利用、定期的なバーチャルでの議論、時折行う対面での確認を、効率的かつ効果的な方法で組み合わせるよう促している。

 しかし、ここに潜在的なリスクが存在する。リソースの最適化を図る過程で、みずからの成長の機会を逃している可能性があるのだ。大きな利害が絡むB2Bセールスにおいて、ニーズが不明確でソリューションも曖昧な状況では、この段階的なアプローチは、信頼が築かれ、インサイトが明らかになり、機会が生まれる決定的な瞬間を逃す危険性がある。そして、まさにこうした瞬間に、顧客と直接対面をする競合他社が静かに優位に立つのだ。

 対面での業務や会議の必要性についての企業の考えは、2020年に劇的に変化した。いうまでもなく、新型コロナウイルスのパンデミックで多くのオフィスワークが数カ月にわたって全面的にリモートに移行したことがきっかけだ。しかし、パンデミックが収束するにつれて、バーチャルまたはデジタルなコミュニケーションへの過度な依存がもたらすリスクを示す事例を耳にするようになった。

 その一例を挙げよう。2021年、企業のオフィスがまだ閉鎖されていた時期、ある製薬会社の営業担当者が、首都ワシントンの大規模な医療施設に隣接するスターバックスで、数カ月ぶりに長年の顧客と対面した。会話が進むにつれて、そのアカウントマネジャーは驚くべきことに気づいた。競合他社の担当者が別の顧客と近くに座っていたと思えば、数分後には別の競合他社の従業員が打ち合わせのために店内に入ってきた。顧客との話が進むにつれ、状況が明らかになった。他社は数カ月も前から対面ミーティングを再開しており、このアカウントマネジャーがズームに依存している間に、彼らは対面で顧客と関係を構築し、深めていたのだ。そうやって彼らは、マインドシェアを獲得し、状況を把握し、影響力を持つようになっていた。こうしたことは、ズームでは不可能だ。

デジタルのみの関係性の脆弱性

 デジタルチャネルは、規模と効率性を推進する。B2C市場では、デジタルは顧客を定着させやすい。習慣、ブランド選好、および利便性が、継続的な人的関与なしに顧客をつなぎ留める。しかし、大きな利害が絡むB2Bでは、ロイヤルティはより脆弱だ。関係性は、多数の会話と一貫したサービスなどの提供を通じて築かれた信頼、問題解決を通じて得られた信用、売り手が顧客のビジネスを真に理解しているという感覚に依存する可能性が高い。デジタルやバーチャルなコミュニケーションへの過度の依存は、もろい関係性を生む。メッセージは読まれ、ウェビナーは視聴され、レポートはダウンロードされるが、関係性を強固にする感情的な深みやインフォーマルな意見交換は、往々にして欠落したままとなる。

 ほとんどのやり取りが形式的でテクノロジーを介したものである場合、関係性は顧客を取り巻く広いビジネス環境ではなく、単なる取引へと狭まってしまう。その結果、より共感しながら傾聴したり、より優れた提案をしたりする競合他社に機会を与えることになる。

 問題はデータや分析、AIにあるのではない。これらのツールはインサイトとリーチのために不可欠だ。顧客がいまだに必要としている人間的なプレゼンスを軽視することなく、デジタルインテリジェンスを活用することはできる。