日常業務の中で部下を成長させるコーチングの手法
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サマリー:コーチングと聞くと、スケジュールされた形式的な場をイメージするかもしれないが、日常の何気ない瞬間にも効果的に行うことができる。現代のリーダーには、対話を通じて部下の当事者意識を引き出す「ポップコーン・コーチング」のような即興的なアプローチが求められている。本稿では、仕事の流れの中で部下を成長させるための、手軽で効果的な6つの実践的な方法を紹介する。

コーチングは必ずしも形式ばったものではない

 筆者のクライアントの一人であるCEOから、こう言われたことがある。「コーチングが大切なのはわかっています。ただ、あまりセラピーめいたものでなければいいのですが」。彼が想像していたコーチングは、スケジュールが組まれ、体系化されたものであり、プライベートな形式に則ったコミュニケーションだった。このCEOは多くのリーダーと同様、自分の責任がまた一つ増えると思うと、重圧で押し潰されそうだった。ビジネスリーダーは問題を解決し、業務を遂行することについては訓練されているが、立ち止まって、問いを投げかけ、導くこととなると、そうとは限らない。とはいえ、研究によれば、ほとんどのマネジャーはコーチングの方法を知らないものの、習得することは可能だという。

 正式なコーチングのセッションはリーダーシップ開発において重要な位置を占めるが、別のタイプのコーチングも同じくらい大切だ。それはインフォーマルで、柔軟で、仕事の流れの中に組み込まれたコーチングである。たとえば、廊下で、ミーティングの後で、出張の道すがら、あるいはデジタルプラットフォーム上で行われる短時間のつながりとフィードバックだ。

 正式なコーチングセッションは、発見と対話のために場を設けられる。インフォーマルなコーチングは、学びが最も状況に即していて、記憶に残りやすく、直近の出来事をきっかけとする、教えやすい瞬間を活用する。筆者は拙著Coaching: The Secret Code to Uncommon Leadership(未訳)のためのリサーチと世界各地のリーダーとのインタビューから、その場のその瞬間にコーチングするための、取り組みやすく効果が高い6つの方法を見つけ出した。

1. その瞬間を捉えて、そっと背中を押す

 最も人を変える力のあるコーチングは、短く、決まった筋書きのない瞬間に行われる。また、単に一般的なサポートやアドバイスをするのではない。戦略的な問いかけを通して、自分の仕事に「やらされている感」(服従感)ではなく「当事者意識」(責任感)を養う自己発見を促す。

 それは「ナッジ」(背中をそっと押す刺激)と呼ばれる短時間の自然発生的なやり取りで、仕事環境から切り離されたインフォーマルな空間で起きることが多い。テキサス大学特任教授で組織行動論を教えるロバート・ヒックスは、ポップコーンの粒が思いがけない時にはじける様子にインスピレーションを得て「ポップコーン・コーチング」という造語を生み出したが、ちょうどそれに当たる。こうした小さなコーチングのチャンスは、エレベーターの中、ミーティングの後、ワッツアップ上のメッセージのやり取りの中で、思いがけない時に訪れ、何分間か続く(何時間も続くものではない)。リーダーの役割は、こうした教育的瞬間に気づき、振り返りを促す問いかけをし、従業員がみずからを振り返って、リフレームし、成長する手助けをすることだ。

 筆者がインタビューしたある従業員は、エレベーターでの上司との短いやり取りが、一年で最も忘れがたい会話になったという。「今回のクライアントとの会議はとてもうまくいきましたね。そこから学んだことを一つ挙げるとすれば何でしょうか」。なぜ忘れがたいかというと、ほめられたからではなく、リーダーが彼女のパフォーマンスの何かに気づいて、わざわざ掘り下げてくれたからだという。この短い自然発生的なやり取りに促されて、彼女は何がうまくいったのかを明確に言葉で表現し、過去の会議ではデータやスライドに頼りすぎていたことを理解した。この時はストーリーテリングを前面に出した結果、成功したのだ。上司は成功の瞬間を学習の瞬間に転換した。これがコーチングの極意である。日常の瞬間を用いて、ただ励ますだけではなく、洞察のきっかけを与えるのだ。

 小さなチャンスを見つけ出し、機を逃さずに指導し、リフレームし、あるいは励ます。そこに一貫性が加われば、こうした瞬間は一回限りのやり取りからコーチングの文化へと変化する。ある日、筆者はスーパーマーケットで偶然、元クライアントの製薬会社の上級幹部に出会った。軽いあいさつを交わした後、彼は同社のアジア太平洋リーダーが筆者のプレゼンテーションを高く評価しているので、「来週の取締役会向けに、少し調整し直すことを考えてみてもいいかもしれませんね」と言った。これはコーチングのナッジだった。このほんの短いやり取り、そして日常の何気ない瞬間での偶発的で即興的な指導が、筆者が重大なチャンスにどうアプローチするかを決定づけるものとなった。

 リーダーが振り返りをたまにやるのではなく習慣にすれば、従業員は成長を日常のリズムの一環として捉えるようになる。そして従業員は自己評価の筋肉を鍛えて、継続的に成長していく。コーチングは一貫性を伴わなければ、たまにやる特別なことのように感じるかもしれないが、一貫性があれば、日常的なリーダーシップそのものに組み込まれていくだろう。