AI導入による成功を阻む「組織的障壁」をどう克服するか
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サマリー:AIへの期待が高まる一方、多くの企業は期待通りのROI(投資利益率)の実現に苦戦している。筆者らが行った100人超の幹部調査と20件超の調査から、最大の障壁は技術ではなく、人材・プロセス・政治という3つの領域に根差す組織的要因であることが判明した。本稿では、これら相互に関連する障壁を分析し、企業が取るべき具体的な対処法について検証する。

45%の企業幹部が「AI導入のROIは期待を下回る」

 AIをめぐる熱狂が経営トップ層の間で話題を席巻している。だが大半の組織はいまだに、AIの取り組みから有意義な利益を生むことに苦労している。

 筆者らはこの課題を掘り下げて調べるために、100人以上の経営幹部らへのアンケートと、さまざまな業界での20件を超えるインタビューを組み合わせた大規模な調査を実施した。アンケートの結果、AI導入のROI(投資利益率)が期待を下回っているとした幹部は45%に上る一方、期待を上回っていると答えた幹部は10%に留まっていた。また、最も大きな障壁は技術ではなく組織的な要因であることも明らかになった。これらの知見をもとに筆者らは、人材、プロセス、政治という3つの領域に根差した、相互に絡み合う一連の障壁を突き止めた。

 本稿では、これらの相互に関連する障壁について検証し、企業がどのように対処しているのかを見ていく。

AIに対する従業員の準備態勢を高める

 AIに対する従業員の準備態勢について考えるに当たり、筆者らの調査では3つの問題が明らかになった。不透明感、置き換えられる不安、自己イメージの問題である。

不透明感の問題:「このAIは実際に何をするのだろうか」

 スラックが2024年に実施した1万7000人以上のオフィスワーカーを対象とする世界的調査によれば、従業員の61%はAIを学ぶために5時間未満しか費やしておらず、30%は研修をまったく受けていなかった。知識がなければ、意見は二極化しがちだ。AIをブームの過熱にすぎないとして切り捨てる従業員もいれば、AIは万能だと思い込む従業員もいる。

 企業がAIに対して抱く不透明感は、技術的能力に関することに留まらない。たとえば、ある監査法人はワークフロー全体でAIの活用機会を見出したが、クライアントと監査人の双方が規制上のリスクを理由に挙げて反対した。最終的に、同社はAIをベースとするアプローチの多くを断念した。

 こうした懸念に対処するには、企業は日常業務にAIのガバナンスを組み込み、すべての従業員が直観的に理解できるようにすべきである。効果的なガバナンスは意図せぬ結果を防ぐだけでなく、AIの神秘性を払拭する助けにもなる。

 一例として、DBS銀行は2018年、AIのすべてのユースケースを評価するためにPUREのフレームワークを導入した。明確な目的があること(Purposeful)、驚かせないこと(Unsurprising)、尊重すること(Respectful)、説明可能であること(Explainable)だ。従業員は長々としたポリシー文書に頼るのではなく、4つのシンプルな問いを指針とする。その用途には明確な目的と意義があるのか。結果が顧客を驚かせてしまうのではないか。顧客および顧客のデータを尊重しているのか。出力は説明可能なのか。このアプローチによって不透明感が減ると同時に、責任ある利用が徹底される。