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AI利用実態調査から何がわかるのか
生成AIが私たちの仕事や私生活においてますます大きな役割を果たすようになる中、この技術に対する自分なりの視点を持っておくことは有益だろう。生成AIはこの3年ほどの間に無視できないほど大きな存在になった。この新たな現象について考える一つの有用な方法は、技術そのものの急速な変化と、日常的な使用によって生じる人間の行動変化とを切り離して考えることである。
技術の面では、最新モデルのリリース、ベンチマーク性能評価、大型投資の発表、学習データソース、新機能など注視すべき点が数多くある。一方、人間に関わる面では、実際の使われ方とその理由を理解することである。筆者の研究は後者、つまりAIに対する人間の反応と適応という人類学的側面に焦点を当てている。
しかし、経営者にとっては学究的関心では済まないだろう。企業はAIツールに莫大な投資をしていながら、いまのところ有意義なリターンを得られていない。(ベンダーの売り文句ではなく)実際にAIがどのように使われているかを理解することによって、経営者は高コストな誤りを回避し、具体的なビジネスチャンスを見つけ、どのツールを導入し、どのユースケースを促進するかについて賢い選択ができるようになる。ビジネス変革、とりわけAI変革は、実質的には人々の行動変化を促すことであり、そのため人々が何を理解し、感じ、行っているかは、極めて重要な情報である。
2025年、AIの人間行動側に関する主要な調査研究が3つあった。それは、オープンAIの使用状況レポート、アンソロピック経済指標、そして筆者自身のソーシャルリスニング調査であり、私たちが生成AIをどう使っているかについて、それぞれが異なる視点から情報を提供している。
現状を把握する正当かつ合理的で有用な視点を得る方法は、多くの異なるソースからの情報を統合することである。上記3つのレポートをそれぞれの手法の長所と短所を念頭に置いて総合的に考察することで、経営者が高い視座から生成AIに関する賢明な決断を行えるよう、いくつかの兆候を明らかにしたい。
AI調査レポートを批評的に読む
個々の研究に目を向ける前に、それぞれが(どの研究もだが)公表された背景を理解することが重要である。既得権益は、表に見える場合も、隠れて見えない場合もある。そのため新しい調査報告を読む際には、いくつかの注意点がある。
既得権益
どのソースも方法論的には正確かもしれないが、何からも影響を受けていないレポートは存在しない。企業はよく調査報告を公開するが、それは自社の利益になるからである。AI企業が公表する利用状況データは、調査自体が提供する価値に加え、自社の提供するプラットフォームの価値を示し、採用を促す効果がある。それ自体は調査結果の有効性を損わないが、賢明な読者は、そのことに留意して読むべきだろう。
固有のバイアス
調査の種類によって、伝えようとするストーリーの傾向がある。たとえば、利用状況レポート(本稿で取り上げている3つすべて)は、成長や勢い、方向性、そして好ましい結果などを強調する傾向がある。最も印象的なユースケースを強調し、数多く存在する失敗や制約の事例を目立たなくさせることもある。どの指標を選ぶか(アクティブユーザーか満足度の高いユーザーか、タスクの達成度か質かなど)によって、まったく別の絵が完成する。
トライアンギュレーション(三角測量)
一つの調査にも価値はあるが、その結果が再現されることにはより大きな価値がある。最も価値があるのは、異なる手法を用いた複数の調査が一貫して同じ結論に収束する時である。それはまさに本稿で行っているような異なる調査間のクロスチェックによってでも、単にレポートが示す結果と自分自身の体験とを照らし合わせるだけでもよいだろう。大勢の経営者がいま、規模は違えどAI投資の是非を評価している。そうした判断は、現実をしっかり見据え、批判的な視点をもって行うべきである。
調査手法の概要
人間の行動というテーマに話を戻そう。
人がAIをどう使っているかをどのように調べるのか。生成AIには日々、膨大な数のクエリが送信されている。しかし、それは個人とその個人が使用するLLMとの間のことであり、LLM開発企業でさえ、見ることのできるメッセージの内容は制限されている。当然、調査レポートにユーザーのメッセージを載せることはできない(オープンAIはレポートに「調査チームのメンバーはユーザーメッセージの内容をいっさい見ていない」と明記している)。
これまで主に3つの手法が用いられている。
テレメトリー(データを遠隔で収集し分析する方法)
ユーザーの実際の行動を示す利用ログであり、LLMだけがアクセスできる。
・長所:実際の行動を把握できる。データ量が多い。
・短所:単一のプラットフォームに限られる。ログアウトまたはオプトアウトしたユーザーは除外される。コンテキストに欠ける(プライバシー保護のため)。一般にはアクセスできない。
サーベイ(アンケート調査など)
質問に対するユーザーの回答。
・長所:さまざまなことが聞ける(人口統計学的属性など)。セットアップが容易。
・短所:自己選択バイアス。実際の行動を反映しない可能性。データ量が少ない。
ソーシャルリスニング(ネット上の投稿などの収集分析)
ユーザーの自発的な発言。
・長所:真実性(匿名性による心理的安全性)。詳細性。人々が最も強く関心を持つテーマを捉えられる。二次的な反応や影響を把握できる。
・短所:データ量が少ない。情報源の偏りがある。人口統計学的データは取得できない。
どの手法も単独ですべてを捉えることはできない。しかしこれらを補完的に組み合わせることによって、10億人の人々がAIをどのように日常に取り入れているかについて、実用的で有益な全体像を描くことができる。
特にソーシャルリスニングについて
これらの調査の結果を確認する前に、筆者が使用している手法であるソーシャルリスニングについて詳述したい。
大きな優位性の一つは、誰もができることである。膨大な調査対象者リストや、LLM開発企業の従業員である必要がない。パブリックフォーラム(表現の場としての公共の広場)にはAI使用に関するデータが豊富にあり、誰もが集めて解析できる。
ソーシャルリスニングは、感情の強さを捉える。そこには人の行動があり、公に記す(時には熱く語る)に足る興味の対象がある。この調査手法では、たとえばAI製品のローンチ、脆弱なユーザーの保護、またはエッジケース(極めて特殊なケース)の理解など感情移入が重要なコンテキストにおいて、人間に桁外れの影響を及ぼすユースケースが見つかる。
たとえば、AIによる精神的錯乱に関するニュース(このウォール・ストリート・ジャーナルの記事など)は、筆者の2025年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の論稿の数カ月後に登場した。それは、大勢の人が同様の体験をしたからではなく、ごく少数の体験者に深刻な影響があったためであり、彼らの一部がその強烈な体験をレディットなどで共有したからである。
匿名性は、人が何をシェアするかに影響を与える。オンラインフォーラムでは、別名を使用することによって心理的安全性が生まれる。そのため、プライバシー保護によって念入りに無害化された企業データには決して表れないような、セラピー的な使用法や個人的な事柄、怪しい使い道についてやり取りされる。もちろん、すべての投稿が正確であるとはいえないが、この手法が、他の手法では構造的に見落とされがちな重要なAI使用の実態を映し出すことは確かである。
パブリックフォーラムはまた、後続のコンテキストも提供する。元の投稿者とその後のコメント投稿者は、互いの体験を基に議論を発展させ、時にはユースケースが目標を達成したかや、どのような代替方法が見つかったか、どのプロンプトが最も効果的だったかといったその後の展開を打ち明ける。このようなコミュニティ主導の事後的な知見は、使用ログやアンケートからはほとんど得ることはできない。
調査結果が主に一致している点
異なるレポートの間で一致する点には、注目に値する兆候があると考えられる。そして一致点は数多くあった。
予想通りLLMの使用は急増している
チャットGPTの1週間のアクティブユーザー数は約8億人、週当たりのメッセージ送信数は約200億に達した。アンソロピックでは従業員の40% が業務でAIを使用し、わずか2年前の倍の割合だとしている。
タスクはべき乗則に従う
べき乗分布では、ごく一部の事象が不釣り合いに大きく、残りの大半は小さい。オープンAIのレポートでは、全メッセージの78%が上位3つのカテゴリー(実用的なガイダンス、文章作成、情報検索)に該当している。アンソロピックのレポートでは、タスクカテゴリーの20%が使用の87%を占めているとする。筆者の調査では、上位20ユースケースカテゴリーがユースケース全体の半数以上を占めている。この集中傾向は、AI投資の際に、一度に全方位で行うのではなく、少数の高インパクトなユースケースに絞るべきことを示唆している。
AIを主に文章作成に使用している
オープンAIのレポートには、「業務で最も一般的なユースケースはライティングであり、業務関連のメッセージの約40%を占めている」と書かれている。アンソロピックの最新のレポートはこのことにあまり言及していないが、2025 年2月のレポートには、主な結果の一つとして、「ソフトウェア開発とテクニカルライティングのタスクに使用が集中している」と書かれている。筆者の調査における上位100ユースケースのうち少なくとも 20 は、まさにライティングに関係する。生成AIの出力フォーマットの大半がテキストであることを考えれば、もっともなことだろう。このようにライティングの占める割合の大きさを考えれば、より特異で野心的な応用よりも、プレゼン資料やレポート、コミュニケーションなど言葉に近い領域に寄り添うツールのほうが、早く投資を回収できる可能性がある。
学習・教育は主要なカテゴリー
アンソロピックでは、教育利用が 9.3% から12.4%に伸びた。オープンAIでは、チャットGPTのメッセージ全体の約10%が個人指導や講師のリクエストであった。 筆者の調査では、ユースケースの20%が学習・教育カテゴリーに該当する。AIが高い認知能力を持つ好奇心旺盛な生物のために開発された「知能」の技術であることを考えれば、意外なことではないだろう。
現在は補完・強化、今後は自動化
アンソロピックでは、作業指令の会話(自動化)が8カ月で27%から39%に増加し、法人のAPIの会話記録の77%は自動化優勢であった。オープンAIでは、業務での大半(56%)のタスクが、表現や質問ではなく、作業依頼であった。筆者が日常的に注視しているソーシャルプラットフォームでは、エージェント的な使用についての投稿がかつてないほど増えている。
調査結果が分かれる点
もちろん相違点もあり、これらも参考になる。2点ほど紹介しよう。
まず、LLMがどれだけコーディングに使われているかである。アンソロピックの調査では、サンプル全体の36%が生成AIをコーディングに使用しており、筆者の調査では8%、オープンAIではユースケースのわずか4.2%に留まっている。これは、興味深い大きな差異である。アンソロピックのカテゴリーが若干広い(数学を含む)ことや、初期にコーディングアシスタントとして評判を得ていたことで、部分的に説明はつくかもしれない。しかし、LLMの2社や他社のさらなる説明が必要だと感じる。
もう一つの違いは、筆者の調査とオープンAIの調査では、LLMをセラピーに使用している人の割合に差があることである。これはオープンAIのレポートの元のバージョンに明記されている。オープンAIでは「人間関係と内省」はメッセージの1.9%を占めるが、筆者の分析では「セラピーと寄り添い」は最多のユースケースである。とはいえ、この違いはさほど大きくはない。筆者のデータセットでは単独トップであっても、実際には全体の約4%に留まる(ユースケースは100を大きく超える)。この2ポイントの差は手法の違いによって説明できる。
データや調査に頼ってAI導入に関する重要な決断を下す際には、すべてのデータに批評的にアプローチし、雑音から信号を、霧中からパターンを取り出すことが必要である。調査結果を読む際には、以下のヒントを参考にしてほしい。
独自のAI視点を持つためのヒント
1. AI楽観論者(アリー・ミラーなど)、懐疑論者(ゲイリー・マーカスなど)、中立派(ニコラス・トンプソンなど)をフォローする。ソーシャルメディアやAIによって悪化したフィルターバブルに囚われないようにする。
2. 調査結果を自社や自分自身のAI使用状況と照らし合わせる。社内や私生活で見ているものと一致しているだろうか。
3. AIを使ってAI調査を要約する(これぞメタである。要約は筆者のトップ100リストの34番目であった)。自分で行ってもよいが、自分の興味のあるトピックに関する内容をAIに抜粋・要約させるとよいだろう。
4. 数多くの論文の見出しを確認するだけでなく、時々は一つの科学論文を最初から最後までじっくり読む。見出しばかりに目が行ってしまうが、見出しは驚きや衝撃を与えるのが狙いであり、必ずしも本質を突いているとは限らない。
5. 外部の調査に頼らず、自社の指標に基づく調査を実施する。外部の調査は、あるAI活用の効果を教えてくれるかもしれないし、何をどのように測定すべきかのヒントをくれるかもしれない。しかし重要なのは自社のコンテキストである。根拠が明確な学術研究から必要な情報を抽出し、自社の生々しいビジネス状況に当てはめよう。
6. 相違点を探す。調査結果が大幅に異なる場合(前述のアンソロピックとオープンAIのコーディング利用の差など)には、おそらく何か興味深いことが起こっている。さらなる調査が必要か、まだ誰もやっていないか、発掘されていないビジネスチャンスが潜んでいる可能性がある。
7. 最後に、自分自身で調査を行ってみる。少なくともソーシャルリスニングは、筆者同様、誰もが使える手法である。
* * *
AIは目まぐるしく進化し、とどまるところを知らない。私たちはそれに素早く適応しなければならない。個々の調査からは、状況の一端がわかる。複数の調査を適切かつ批評的に統合することによって、まだ完璧ではないがより立体的な景色が浮かび上がる。
本稿で取り上げた3つの調査は、総合的にいくつかの明らかな兆候を示している。つまり、使用が急増していること、使用が比較的少数の実用的なタスクに集中していること、自動化が始まっていること、そして人間のつながりに関するユースケースが、感情への影響や必要性の大きさを反映して話題に上りやすいことである。AIの今後の進化を注視すると同時に私たち自身の進化にも忘れずに目を向けよう。
"Making Sense of Research on How People Use AI," HBR.org, November 18, 2025.






