生成AIはベンチャーキャピタルの投資判断をどう変容させたか
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サマリー:生成AIの台頭は、ベンチャーキャピタル(VC)業界に構造的な変革をもたらしている。AIツールの普及により、スタートアップは少人数・低資本での急成長が可能となり、投資判断においても独自のデータや「AIネイティブ」な構造が新たな差別化要因となった。一方で、創業者の資質を見極める人間的要素の重要性はむしろ高まっている。本稿では、AIがVCの業務や資金調達のあり方をどう変え、現在の市場で何が成功のカギとなるのかを述べる。

生成AIはベンチャーキャピタルのあり方も変える

 ベンチャーキャピタル(VC)業界はこの数十年にわたり、テクノロジーによる破壊的変化を数え切れないほど目にしてきた。だが、生成AIほどのスピードと広がりを伴っていたものはほとんどない。チャットGPTのリリースから3年の間に、生成AIはスタートアップの構想、ピッチ、組織編成、資金調達のあり方を根本から変えた。スタンフォード大学の報告書によると、世界における民間のAI投資額は2024年に過去最高の2523億ドルに達した。このうち生成AIへの出資は339億ドルに急増し、2022年の8倍超となった。

 VC企業は、スタートアップの創業者がこの新たな世界を理解できるよう助ける格好の立場にある。筆者らが先頃実施した7人の著名ベンチャーキャピタリストへのインタビューでは、スタートアップとVC企業双方の環境が進化しており、それが最終的には業界再編につながる可能性が見えてきた(インタビュー対象のVC企業を選ぶに当たり、生成AIスタートアップへの出資実績と、規模および注力分野のバリエーションを考慮した)。

 これらのベンチャーキャピタリストたちは、検討する技術投資のほぼすべてにおいて、いまやAIが中核的な能力や機能として含まれていると語った。一方で、AIはVC企業の仕事のやり方も変容させている。今日、AIはスタートアップのピッチと必要な資金水準に影響を及ぼし、かつVC企業自体の構造にも変化をもたらしつつある。

 本稿では、現在何が変化しているのか、そしてこのホットな市場で何がスタートアップの差別化要因となっているのかを述べる。

ピッチが増加し、一部は質が向上

 インタビューしたVC各社は、持ち込まれるピッチの量と質の両方に生成AIの直接的な影響が見られると語った。いまや起業家はAIを活用して、製品と市場の説明、市場進出計画、ブランディング素材、さらにはソフトウェアのデモも作成している。

 これは投資提案の質という面では諸刃の剣である。ハイパープレーン・ベンチャーズのビビアン・ミルトは、誰もがツールを使ってピッチを迅速に作成できるため「ノイズが過去最高に多い」と述べた。一方でブルーム・ベンチャーズのダン・フォン・コホーンは、ある程度のメリットも感じている。「全体的な質は二極化しています。質の低いピッチが劇的に増え、トップレベルのピッチの質もまた相当に上がっています」と説明した。

 女性の健康分野への投資を専門とするフォアグラウンド・キャピタルのエリザベス・ベイリーも、同様の機会を認識している。「かつては市場を十分に理解していない企業も見られました。いまではそのような企業でも、自社のチャンスを定義して明確に示すための強力な分析手段を新たに持っています」

 起業家はこれらのツールを活用すべきだが、注意点がある。VC企業も創業者と同じ生成AIツールを利用できるため、ビジネス課題、テクノロジー、スタートアップの製品・サービスの市場に関する調査が浅ければ、経験豊富なベンチャーキャピタリストを感心させることはできない。創業者とそのチームは、顧客インタビューから得た現実的な知識、関連する個人的体験、専門的アドバイザーとの人脈によって、生成AIの出力内容を補強する必要がある。

効率性:人員数と取引規模の縮小

 創業者は、生成AIによって事業運営をどのように効率化できるのかを説明できなければならない。技術スタッフを大幅に減らし、技術職の役割を見直したうえでスタートアップを立ち上げることが可能となっている。これは通常、事業の開始とスケール化に必要な資金規模の縮小につながる。