-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
「他社の問題」は自社には関係ないという思い込み
企業の評判は、みずからに何の落ち度がなくても傷つくことがある。同業他社が商品の安全性の欠陥、規則違反、注目を集める不祥事などで危機に陥ると、顧客や投資家、規制当局は、同じカテゴリーにある他の企業も似たような弱みを抱えていると推測することが多い。
2015年に発生した米メキシコ料理チェーン、チポトレ・メキシカン・グリルの大腸菌感染による集団食中毒の余波を考えてみよう。何度も大きく報じられ、同チェーンが信頼回復に苦しんでいる時、まったく落ち度のない無関係のメキシコ料理レストランで、突然、客足が減った。料理のカテゴリー以外に共通点がないにもかかわらず、現実に損失を被ったのだ。同じパターンは繰り返されている。米エネルギー大手エンロンが巨額の不正会計事件で破綻した際には、エネルギー部門全体の信用が損なわれた。ドイツのフィンテック企業ワイヤーカードの不正会計事件では、欧州全土の電子決済企業が疑惑の目を向けられ、暗号資産(仮想通貨)交換業大手FTXトレーディングの経営破綻をきっかけに、規制当局は暗号資産業界の広範にわたって取り締まりを強化した。組織間の波及効果の本質は、一企業の危機が同類の企業に飛び火し、全体として企業の評判、投資家の信用、顧客の信頼を損なうことである。言わば、受動喫煙の企業版だ。火を点けたのが自分でないにもかかわらず、煙に苦しめられるのだ。
なぜ波及効果が生じるのだろうか。それは、ステークホルダーはたいてい周囲との関係の中で組織を評価するからだ。限られた時間と情報の中で、ステークホルダーは認知のショートカット(近道)をする。業界、地理、商品、ガバナンスの結びつき、サプライチェーンの関係によって企業を一くくりにし、一企業の不正行為はより広いカテゴリー全体の欠陥の表れだと推論する。その結果、適切に運営されている企業が他社の失敗のせいで実質的な損失を被ることがある。研究によると、不祥事のあった業界の企業は、たとえ自社の運営が健全でも、往々にして株価の下落、規制当局による監視の強化、アクティビストのキャンペーンに直面する。顧客もまた、企業自体の行動ではなく関わりの有無を理由にして離れていくことがある。
大半の企業は、こうした危機の波及にほとんど備えられていない。リーダーは同業者の不祥事を他人事と見なしがちだ。遠巻きに眺めて、おそらく他人の不幸にそっとほくそ笑み、注目が他所に向いていることに安堵する。だが、自社も一般社会から疑われていることに気づいた時には、もう遅い。すでにナラティブが定着しているからだ。しかし幸いなことに、波及効果を抑えることは可能であり、優位性に転換することさえできる。迅速に行動して、自社の違いを強調し、透明性を受け入れ、ステークホルダーを直接的に安心させる企業は、評判のダメージを抑えられるだけではなく、信頼を強化することもできる。乱気流の中で好機を見つける企業もある。たとえばチポトレの大腸菌食中毒事件の後、キュードバ・メキシカン・グリルやモーズ・サウスウェスド・グリルなどの競合ファストカジュアル・チェーンは、自社の食品安全の実践と調達基準を前面に出して、警戒心の残る顧客の信頼を勝ち取った。
必要なのは、マインドセットの変化だ。同業者の危機は対岸の火事ではない。あなたの会社の正当性に対する潜在的脅威だ。情報が瞬時に伝わり、容赦なく調べ上げられる時代において、「他社の問題」と「自社の問題」の境界線は曖昧になっている。競合他社やサプライヤー、そして隣接市場の企業の崩壊でさえ、たちまち、ステークホルダーがあなたの会社をどう見るかに影響を及ぼしかねない。
波及効果が生じる理由
ある企業がつまずくと、往々にして他の企業も疑いの目を向けられる。それは直接的な競合相手だけではない。波及効果は、業界、地理、サプライチェーン、ガバナンスのネットワーク全体にまで及ぶ。その根本的な理由は、ステークホルダーはカテゴリーで判断するからである。ステークホルダーは、個々の企業を周りとの関係を切り離して評価することはほとんどない。業界、拠点、提携関係などのパターンや類似点を探し、教訓を幅広く当てはめる。
最も顕著なケースは同業者だ。ドイツのフォルクスワーゲンによるディーゼル車の排ガス不正問題によって、同社のみならずディーゼルのカテゴリー全体の評判が損なわれた。消費者はどの自動車メーカーが「クリーンディーゼル」を主張しても懐疑的になり、規制当局はBMW、ダイムラー、その他の自動車メーカーにも調査を広げた。同じ地域の企業がとばっちりを受けることもある。中国江蘇省の化学工場で爆発事故が起きた時、同省で営業する企業は、許可書の正当性を疑われ、評判に疑問符がついた。
サプライチェーンも波及効果が広がる経路の一つだ。2013年、バングラデシュのラナプラザの縫製工場で崩落事故が起きた時、1100人以上の労働者が死亡した。この惨事の原因は地元の請負業者にあったが、この地域に調達先があるスウェーデンのH&M、英国のプライマーク、米ウォルマート、その他多くの欧米ブランドの評判にも影響が及んだ。
ガバナンス面で同類の企業、つまり共通の取締役や監査役がいるという点で関連性がある企業も影響を受けやすい。研究によると、ある企業が財務上の不正行為で告発されると、共通の取締役が在任する企業の株価はしばしば下落する。投資家は、ある取締役会のずさんな監視体制は、同じ個人でつながる別の取締役会の問題の予兆だと推測するのだ。







