生成AIは、英語と中国語で「異なる回答」を提示する
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サマリー:生成AIは言語設定にかかわらず、同じ回答を返すという前提を多くの人が持っているかもしれないが、それは誤りである。大規模言語モデル(LLM)は文化に依存するデータで訓練されており、使用言語によって社会的志向性や認知スタイルが変化し、戦略的判断にまで影響を及ぼす。リーダーが意図せぬバイアスを回避し、AIを真に有効活用するには、こうした文化的傾向の管理が不可欠だ。本稿では、言語の選択を戦略的判断と捉え、AIの推論を制御するための実践的な枠組みを紹介する。

AIは使用する言語が持つ文化的背景を汲み取る

 生成AIは、日常生活に深く組み込まれるようになってきた。思考や創造、意思決定にAIを活用する場面も増えている。だが、組織が生成AIツールの活用を拡大する中で、目立たない前提が当然のように受け止められている。AIツールは、プロンプトの言語に関係なく、同じ反応を示すというものだ。スマートフォンの言語設定を変えるのと同じように、同じ回答が異なる言語で表示されるだけだと考えられている。

 2025年6月、英オンライン科学誌の『ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア』誌に掲載された筆者らの研究論文は、この思い込みに見直しを迫るものだ。大規模言語モデル(LLM)は、本質的に文化に依存するテキストデータにより訓練されており、プロンプトの言語によって、異なる文化的傾向を示し、異なる助言をすることがわかった。

 リーダーや組織が、こうしたAIツールの文化的傾向に気づくことは、ますます重要になっている。生成AIが日々のワークフローに組み込まれるにつれて、このような隠れた文化的傾向がAIの情報解釈や選択肢の評価、さらには戦略的決定の枠組みに影響を与える。その影響は、リーダーがただちには気づかない形であることも多い。

 本稿は、リーダーがこうした文化的傾向を予見し、管理するための実践的な枠組みを提供する。これにより、文化的側面を認識しながら、より有効なAI活用を可能にする。

研究の概要

 生成AIモデルの文化的傾向を調べるため、筆者らは研究の時点で最も多くの人に使われている生成AIモデル、すなわちオープンAIの「GPT」と、百度(バイドゥ)の「文心一言」(アーニーボット)を調べた。そして、文化心理学で確立された一連の測定方法を使って、それぞれのモデルの中国語と英語の回答を比較した。中国語と英語を選んだのは、それらが顕著な文化を代表するからだけでなく、世界で最も広く使われている言語であり、生成AIモデルに大量の訓練データを提供しているからだ。

 筆者らは文化心理学の研究を手掛かりに、社会的志向性と認知スタイルという2つの基本的概念に焦点を当てた。社会的志向性とは、人が他者との関係で自分をどのように定義するかを意味する。米国のような文化では、人は独立志向を持つのが一般的で、自分で自分の方向性を決め、自律性を持ち、独自性を重視する。これとは対照的に、中国のような文化では、個人は相互依存的な志向性を持ち、同調性や人間関係の調和、他者とのつながりを重視する。

 認知スタイルとは、人が習慣的に情報を処理する方法を意味する。米国のような文化では、個人は分析的な認知スタイルを持ち、対象を注視し、形式的な論理を当てはめ、ルールに基づく推論をすることが多い。これとは対照的に、中国のような文化では、個人はよりホリスティックな認知スタイルを取り、文脈や人間関係に注意を払い、矛盾や変化に対して、より寛容な姿勢を示すことが多い。

 生成AIモデルに異なる言語でプロンプトを入れると、一貫して文化的傾向を示すことがわかった。具体的には、英語(または中国語)でプロンプトを入れると、GPTもアーニーボットも、より独立した(または相互依存的な)社会的志向性と、より分析的な(またはホリスティックな)認知スタイルを示した。たとえばAIモデルに、日常的な状況で、なぜ人は特定の行動を取るのか説明してもらった。すると、英語のプロンプトの場合、AIモデルはその行動がその人の性格に起因すると回答する傾向が強かった。これとは対照的に、同じAIモデルでも中国語のプロンプトに対しては、社会的文脈が原因と答える傾向が強かった。

 たとえば、あなたがリーダーだとして、AIにプロジェクトが失敗した原因を診断してもらったとする。英語のプロンプトは、個人の責任を中心とする説明がなされるが、中国語のプロンプトに対しては、資源の制約など外的影響を指摘するだろう。このような文化的傾向は、タスクやAIモデルのパラメーター、プロンプトのフォーマットの違いに関係なく、共通して見られた。

 こうした文化的傾向は、現実的なビジネスにも影響を及ぼす可能性がある。筆者らがあるAIモデルに、マーケティングスローガンを評価してもらったところ、プロンプトの言語が違うだけで、体系的に異なる選択をした。英語のプロンプトに対しては、個人のウェルビーイング(独立性)を強調するスローガンを高く評価し、中国語のプロンプトに対しては、集団のウェルビーイング(相互依存)を強調するスローガンを高く評価した。実務において、こうした根本的な文化的相違を認識せずに、単純に英語のスローガンを中国市場向けに翻訳してマーケティングキャンペーンを展開すれば、失敗に終わるおそれがある。