AIによる「会議の代理出席」がもたらす代償
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サマリー:AIエージェントが会議に代理出席し、議事録を要約する時代が到来した。しかし、効率化の代償として、人間がリアルタイムの対話で得る「脳間同期」や「活性化拡散」といった神経科学的な恩恵が失われる懸念がある。みずから思考し、ひらめきを得るプロセスを外注することは、人間特有の認識力を鈍らせかねない。本稿では、AIとの共存において、思考の深みや創造性を損なわずにその利便性を享受するための指針について紹介する。

ダボス会議にAIエージェントが代理出席する時代

 2025年初め、私は影響力のあるCEOや政治指導者、学者、エコノミストに混じって、スイスのアルプスで開催されたダボス会議に出席した。会議後、一連のバーチャルセッションに参加したところ、奇妙なトレンドに気づいた。参加者が人間ばかりではないのだ。むしろ驚くべき数の招待客が代理としてAIエージェントを送り込んでいた。ボットたちは会話に参加し、メモを取り、その後、主人に要約を送信した。ある時などは、出席予定者12人のうち6人が人間、6人がAIエージェントであった。

 私にとっては珍しい体験だったが、このトレンドは今後どんどん広がるおそれがあるようだ。企業幹部の50%から、多い場合には79%以上が自社でAIエージェントを取り入れていると回答している。すべてのAIエージェントが会議で経営幹部の代理出席を務めているわけではないが、多忙な幹部が関心を寄せるユースケースであることは明らかだ。私は考えさせられた。

 理論的には非常に便利である。1時間の会議に出席し、数分以内に詳細な議事録を送ってくれるから、その間、他の業務に集中できる。しかし実際のところ、それは本当に自分がその場に居合わせる代わりになるのだろうか。それで議論された問題を深く理解することができるのだろうか。表面をなぞるだけにならないのだろうか。それに、他の出席者も有益な会話ができるのだろうか。私自身、AIエージェントの登場でバーチャル会議の場が白けたように感じた。AIエージェントが出席したセッションでは、期待していた豊かな議論はなく、会話がどんどん単調で空虚なものになっていくように感じた。

 いまやもっと当たり前になっている、ある行動を思い浮かべてみよう。会議を欠席した時に、マイクロソフト チームズやズームで生成された要約を読むことだ。それだけで用は足せるのだろうか。この行動のプラス面とマイナス面は何だろうか。いまやほぼすべての会議にこうした要約が取り入れられている。もちろん単純な日常業務の詳細を詰める会議ならば、それで済むかもしれない。しかし、全員がこれをやり出したらどうなるのだろう。出席人数の最低ラインを定めることになるのだろうか。

 この体験は私にとって、AIと人間のメタ認知についてより深く考えるきっかけとなった。具体的には、人間がどのように自分自身の考えを振り返り、学習の最大効果を図るのか、そして人々の生活にますます入り込み、その一部となっていくAIがそのプロセスをどのように助け、または妨げるのかについてである。AIには、日常の精神的負担の多くを担ってくれるという期待がある。しかしその過程で、人間の認識力が持つ目に見えない効果を手放していないだろうか。

 AIには、否定しようのない利点がある。実際、AIを上手に使っている人と、まったく使っていない人の間には、すでに大きな生産性格差が見られる。したがって、問題はAIを使うかどうかではなく、人が考え、処理し、振り返り、その結果得られる効果を体験できる能力、すなわち人間を人間たらしめている特質を失わずに、どのように使うかである。言い換えれば、「思考の材料」をどうすれば守れるのだろうか。もし、そうしなければ、何を失う危険があるのだろうか。

傾注の力

 会議にAIエージェントを送り込むことは、人間の脳にとって最も影響力のある体験の一つを奪う可能性がある。その体験とは、リアルタイムで他者と何らかのアイデア(考え)にフォーカスすることである。たとえバーチャル環境であっても、そこに他者が存在することによって、アイデアに対する注意力と、アイデアを支える神経回路が強化される。

 人は他者と一緒にあるアイデアに注目すると、脳内で情報をより深く符号化し、理解が増すことが神経科学によってわかっている。これは人間が、話し手は誰か、他者の反応、所属する組織にとってどのような意味があるかといった社会的シグナルに注意を払うように進化してきたからである。そのため、人前にいるというだけで脳が強く活性化されるのである。

 実際、他者とともに考え、処理をしている時には、共通の理解が構築され始める。脳では、これは脳間同期(自他の脳活動の同期)、つまり脳波の同調につながる。関わる脳が多いほど同期は強まり、同期する脳が増えるほど、共通理解が増すことが研究によりわかっている。

 このような傾注による効果、つまり堅牢な神経回路の活性化は、AIエージェントが生成した要約を読むことでは起こらない。これは、小説の要約版を読んでも、実際の本を読んだ時と同じ体験ができないことと似ている。あらすじはわかっても、記憶に留まる要因となる豊かさ、深さ、人物像などが抜け落ちている。私たちは本の要約に感動しないし、会議の要約にも心を動かされない。同様に、チームメンバーや部下を会議に代理出席させ、議事録を書かせても、実際に交わされた会話について同じ質の理解や洞察を得ることはできないのである。