なぜ企業に「最高データアナリティクスAI責任者」が必要なのか
Illustration by Miguel Porlan
サマリー:AI導入が加速する中、多くの企業はAIやデータの統括方法という難題に直面している。調査では、AIへの期待が高まる一方で、具体的な価値創出に苦戦する実態が浮き彫りになった。筆者らは、役職の乱立による生産性低下を避け、データ、分析、AIを一元管理する「最高データアナリティクスAI責任者」(CDAIO)の設置が最も合理的だと主張する。本稿では、CDAIOに求められる役割や権限、組織内での適切な位置づけについて詳述する。

組織内に乱立するデータ関連のリーダー職

 大企業におけるAIとデータに関するリーダー職は、AI導入のペースが加速する中で、どのように変化しているのだろうか。これらのリーダーの任務と権限を変える必要があるのだろうか。そして、AIとデータの監督は事業部門の役割、それともテクノロジー部門の役割と見なすべきだろうか。

 取締役会、事業部門のリーダー、テクノロジー部門のリーダーは、AIの導入によってあらゆる業務プロセスと実務慣行を変革することが求められている。そうした状況の中、彼らはますます切実に冒頭の問いに直面している。あいにく、この問いに答えることは簡単ではない。2025年初頭に筆者らが発表した調査では、回答者の89%がAIはこの世代で最も革新的なテクノロジーになるだろうと答えた。だが実際には、企業はいまなおAIによる価値創造に苦戦している。この新しい時代にリーダーシップがどうあるべきかを理解することは、極めて重要だ。

 筆者らは過去30年間、データとアナリティクス、そしていまはAIが企業をどのように変革できるかを最前線で目撃してきた。本稿の執筆者3人はそれぞれ、フォーチュン150の2社においてAIを含む最高データアナリティクス責任者として、アナリティクスとAIを活用して企業がどう競争優位を築くべきかを論じた画期的な書籍の著者として、そして複数のフォーチュン1000のデータ、アナリティクス、AI関連のリーダーシップの当事者やアドバイザーとして、日頃から企業に助言を提供している。そこでは、こうしたツールによる最大限の事業利益を実現するために、経営陣がどのようなリーダーシップの体制を取るべきかについてアドバイスしている。筆者らの直接的な経験、研究・調査データ、企業の顧問としての経験から確信を持っていえるのは、データ、アナリティクス、AIを統括する責任者を一人置くことが、ほとんどの場合、最も理にかなうということだ。現在、多くの企業がCレベルのテクノロジー関連幹部職を複数設置しているが、役職を過度に増やす必要はなく、結果的にそれが生産性を損なっていると、筆者らは考える。

 筆者らは、最高データアナリティクスAI責任者(CDAIO)と呼ぶ統合された役職を設けることが、企業が今後AI戦略を進めていくうえで最もよい備えになると考えている。以下では、どうすればこのCDAIO職が成果を挙げるかを述べたい。

CDAIOは伝道師であり、リアリストでなければならない

 2008~2009年の金融危機まで、データとアナリティクスは主にバックオフィス機能と見なされ、企業の意思決定の場からしばしば遠ざけられていた。だが、金融危機がきっかけとなり、企業は信頼性の高いデータが絶対的に必要であることに気づいた。信頼性の高いデータの欠如が、金融危機の引き金になったというのが大方の見方だった。それを受けて、データとアナリティクスはCレベルの役割に格上げされた。当初、リスクとコンプライアンスを主眼とする守りの機能として最高データ責任者(CDO)が設けられたが、その後何年かで、同職を発展させた最高データアナリティクス責任者(CDAO)に改める企業が増えた。CDAOの任務・権限を拡大した企業は、従来のリスク管理やコンプライアンスにおけるセーフガードの枠を超えて、データとアナリティクスをビジネス成長のためのツールとして活用し、攻めの取り組みに注力する好機を見出した。

 筆者の一人(ランディ・ビーン)が2012年から行っている年次調査で公開予定のデータによると、この役職は再び急激に変化しているようだ。AIの急速な普及に伴い、53%の企業が最高AI責任者(または同等の役職)を設置している、あるいはその設置が必要だと考えているほか、CDOやCDAOの任務・権限を拡大させてAIも責任範囲に含めるようになっている。また回答者の93%が、AIはデータへの注目と投資の拡大をもたらしていると答えている。

 こうした進展期には、CDAIOと組織の双方に混乱が生じることがある。責務、指揮系統、優先事項、要求が目まぐるしく変化し、職務を適切に遂行するために必要なスキルも変化することがある。この時期、AIに対する急激な関心の高まりを受けて、企業は種々のAIコンセプトの試行に膨大な投資を行った(しかも頻繁すぎるほどに)。AI関連の取り組みは急拡大し、しばしば十分な調整のないまま進められてきたが、リーダーはAI戦略、訓練データ、ガバナンス、実装・運用を全社的に指揮することが求められてきた。

 この時代の難題に対処するために、企業はCDAIOを伝道師かつリアリストとして捉えるべきである。企業にインスピレーションを与え、将来を見据えたストーリーを語る伝道師であり、価値を創造するプロジェクトに注力しつつ利益の出ないプロジェクトを打ち切る、規律ある運営者であり、AIテクノロジーの現況を深く理解する戦略家であると考えるべきだ。

 こうした取り組みの中核にあり、かつCDAIO職の成功に不可欠なのは、AIとデータへの投資によって確実に測定可能なビジネス価値をもたらすようにすることだ。この種の役職はそこでつまずくことが多かった。データ関連の取り組みが相応のビジネス価値を創造していないという事実が、データ関連のリーダーの在職期間の短さ(いわんや、この役職の将来性への疑問)の原因になることが多い。CDAIOは着任初日からビジネス価値の創出に注力する必要がある。

AIとデータへの投資が利益を生むためには、CDAIOに明確な任務と権限が必要

 ほとんどの中~大規模の企業において、データとAIは収益、コスト、商品の差別化、リスクに影響を与える。現在の傾向が続くならば、今後10年間で、AIは商品、各プロセス、顧客対応に系統的に組み込まれるだろう。CDAIOの役割は、新たに出現するリスクに対処しつつ、企業価値の創出を全社的に統括することだ。この変革を導くためには、明確なビジネス上の任務・権限と主要なステークホルダーとの緊密な関係を持つ一人のリーダーが不可欠だ。

 筆者らは成功しているAIトランスフォーメーションを観察して得られた知見をふまえ、今日の企業はCDAIOに以下の任務・権限を委ねるべきと考える。

・AI戦略に対する責任を担う AIによるトランスフォーメーションを実現するためには、組織全体を統括する一人のリーダーが企業の「AI指針」(AIがどのように価値を創造するか)を定義し、それに対応したロードマップや投資対効果(ROI)の見立てを提示しなければならない。そして、その戦略について、上級経営陣チームと取締役会を説得し、承認を得る必要がある。

・新たなタイプのリスクに備える AIは安全、プライバシー、知的財産(IP)、規制に関連するリスクをもたらすため、従来の施策を超えた統一的なガバナンスが必要となる。CDAIOは通常、最高コンプライアンス責任者または最高法務責任者と連携して、この任務に当たるべきである。

・自社のAIテクノロジースタックを構築する ツールとテクノロジーの断片化や一貫性のない管理はコストを膨らませ、効果的なユースケースの構築を難しくする。そこでCDAIOには、自社に適したツールとテクノロジーの導入・開発に関するビジョンを貫徹する権限が求められる。その一環として、各チームが最小限の摩擦で使用できる、安全な「商品としてのAIプラットフォーム」を提供する必要がある。

・企業データをAIですぐに使用できる状態にする これは、特にテキストや画像などの非構造化データを主に使用する生成AIにとって不可欠だ。ごく最近まで大半の企業は、構造化された数値データにのみ注目してきた。だが、非構造化データに対するデータ品質の取り組みは、生成AIが成果を挙げるためには不可欠であり、構造化データに対する取り組みとはまったく別物になる。

・AI活用に対応できる文化をつくる 極めて優れたAIテクノロジーを有する企業が長期的な勝者になるとは限らない。競争に勝つのは、価値創造を最大化できるようAIを導入し、有効に活用する文化を持つ企業だろう。CDAIOはこれを実現するために、ほとんどの場合、最高人事責任者(CHRO)と連携する必要がある。

・社内人材と社外パートナーのエコシステムを構築する 社内人材のアップスキリングと外部からの採用によって、強力な人材パイプラインを構築することが重要である。そのためには、イノベーションと実装の加速を目的とした、技術的パートナーや学術機関との戦略的提携が必要だ。

・組織に大きなROIをもたらす つまるところ、CDAIOは収益の向上、業務の効率化、イノベーションの迅速化など測定可能なビジネス成果を促進する必要がある。そのために、明確な財務的・戦略的KPI(重要業績評価指標)と結びつくAI関連の取り組みを優先する必要がある。CDAIOは実験と全社規模での価値創造をつなぐ役割を担っている。

組織の成功に向けて、CDAIOを適切に位置づける

 CDAIOがどのような権限を与えられているかと同じくらい重要なのが、CDAIOの役割を果たすために彼らが組織の中でどのように位置づけられているかだ。CDAIOが属する指揮系統について、企業はさまざまなモデルを採用している。IT部門直属のCDAIOもいれば、CEO直属のCDAIOや事業部門のリーダー直属のCDAIOもいる。本質的には、CDAIOの主要な役割は、データ、アナリティクス、AIを通じてビジネス価値を創出し、収益向上やコスト削減といったビジネス成果に責任を負うことだ。AIテクノロジーを導入・推進することがCDAIOの重要な役割の一つである一方で、これは価値創造というCDAIOの広範な任務の一要素にすぎない。

 筆者らはビジネス価値の創出を重視する観点から、ほとんどの場合、CDAIOはテクノロジー業務よりもビジネス機能寄りに位置づけるべきと考える。先行研究のエビデンスによると、生成AIが損益計算書(P&L)にポジティブな影響をもたらしたと報告したのは、ごく一握りの企業にすぎない。この事実は、ビジネスファーストのAIリーダーシップの必要性を浮き彫りにしている。筆者らはテクノロジー部門に直属するCDAIOの成功例も見てきたが、それは、その部門のリーダー(一般には「スーパーテック:テクノロジー関連のリーダー職を統合した役職」の最高情報責任者)が、テクノロジーによるビジネストランスフォーメーションに重きを置いている場合だけである。

 現在は、AIとデータ関連のリーダー職が事業部門のリーダーに直属する傾向が続いている。近日発表予定の2025年の調査データによると、主要企業の42%が、AIとデータ関連のリーダーが事業部門またはトランスフォーメーション担当のリーダーに直属すると報告し、33%の企業が社長またはCOOの直属と報告している。もはやデータ、アナリティクス、AIはバックオフィス機能ではない。JPモルガンのような主要企業が、CDAIO職を14人で構成される経営委員会に組み入れている。これは他の企業も倣うべき方向性であると、筆者らは考える。

 CDAIOの指揮系統にかかわらず、上位責任者はこの比較的新しい役職について、またそれに何を期待すべきかを十分に理解していないことが多い。CDAIO職が成果を挙げられるように、CDAIOの直属の上位責任者は、自社のAIに関する目標とCDAIOの任務のチェックリストを用意するべきである。たとえば、そこには次の項目を加えるとよい。

・AI関連の価値観、テクノロジー、データ、リスク、人材に責任を持つ一人のリーダーがいるか。

・AIとデータに関するロードマップは、ビジネス成果に照らし合わせて十分な予算を与えられているか。

・AI関連のリスクと倫理のガードレールは十分に整備されていて、速やかに次の段階に進める状態か。

・AI関連のKPIを少なくとも四半期ごとに測定し、必要に応じて路線変更しているか。

・AIを通して、測定可能で持続可能な価値と競争優位が生み出されているか。

AIとデータのリーダーシップの未来はもう到来している

 初期のCDO職に関する調査からは、この役割は常に困難を伴っていたことがわかる。期待は往々にして不明確で、基本的なデータ投資のみに集中した任務であり、ROIを実証することは難しかった。データとAIは相互補完的なリソースである。AIはデータ投資の価値を示すための強力な手段となるが、AIで成果を挙げるためには、分析型AIには構造化データの、生成AIには非構造化データの強固な基盤が必要なのだ。

 AI関連の取り組みにデータプログラムを付加すると、両方の価値を示すことができるし、構造的にCDAIO職に有利に働く。データに関する基本方針(ガバナンス、プラットフォーム、品質、設計、プライバシー)は、CDAIOの任務・権限のうち、データおよびプラットフォーム領域の一部として位置づけられる。このことは、部門間の引き継ぎが減る、意思決定サイクルが迅速になる、責任の所在が明確になるといった利点がある。

 AIを実験から企業の「筋肉」へと転換するには、企業はビジネス、文化、テクノロジートランスフォーメーションの任務・権限を伴うCDAIO職を確立する必要がある。筆者らは、CDAIOが過渡的な役職にはならないと確信している。CEOと他の上級幹部は、CDAIOが成果を挙げるために、ビジネス、文化、テクノロジー面の任務・権限をサポートするリソースと組織設計を提供しなければならない。誰も予測しなかったほどの速さでAIの未来が到来しつつある。もし企業がそこで競争を勝ち抜こうとするなら、AIとデータを統括する強力なリーダーシップは欠かせない条件になるだろう。


"Why Your Company Needs a Chief Data, Analytics, and AI Officer," HBR, December 01, 2025.