なぜ昇進しても「現場の実務」に引き戻されるのか
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サマリー:昇進後に戦略的リーダーシップを発揮できず、現場の細かな実務に追われ続けるリーダーは少なくない。高い視座から価値を生み出すには、単に役職に就くだけでなく、自身の思考や習慣、さらには組織との関わり方を根本から変革する覚悟が求められる。本稿では、周囲の期待を再定義し、チームの質を高めることで、戦術レベルから脱却し真の戦略的リーダーへと進化するための5つの具体的な戦略を紹介する。

昇進後、リーダーシップを発揮できないのはなぜか

 あなたはリーダーシップを発揮すべきポジションに昇進した。だが、大きな戦略を考えるために必要な余裕は与えられず、相変わらず細かい業務に追われ、戦術レビューや、やたら頻繁なチェックインに巻き込まれている。何かを変えなければ、あなたは戦略的な価値を生み出すリーダーになるチャンスをふいにするどころか、いつまで経ってもビジョンや方向性を示さないと見なされ、チームの信頼を失いかねない。

 これはよくある問題だ。研究によると、多くの中堅、上級の管理職は、組織全体にリーダーシップを発揮するよりも、戦術的な業務に多くの時間を取られている。筆者はシニアリーダーをコーチしてきた経験から、昇進は戦略的リーダーシップを発揮するチャンスを与えてくれるが、必ずしもそれを実行する許可を与えるわけではないことに気がついた。戦略面でのリーダーシップを取るためには、自分の考え方や行動、そして組織との関わり方を変えるという隠れた(そして困難な)作業をして、自分が影響を与えるべきステークホルダーの予測不可能な要求に対処しなければならない。

 新しいポジションに必要とされる水準のリーダーシップを発揮し続けるために(そしてチームが確実に成功するように)、次の5つの戦略を検討すべきだ。

戦術的な業務を続けさせる圧力について理解する

 戦術的な業務に引き戻される理由が一つであることはめったにない。あなたの会社の文化と上司、同僚、あるいはあなた自身の習慣が足かせになることがある。

 もし、あなたの上司が戦術的な仕事を続けさせる原因であるなら、その動機を考えてみよう。よくあるのは、上司が自分の権限を委譲することに不安を抱いているケースだ。多くの場合、彼ら自身が直属の部下のポジションを経験しているため、自分自身の厳しい学習曲線を直視するよりも、なじみのある問題に口出しをするほうが楽なのだ。

 筆者がかつてコーチしたバイスプレジデント(VP)は、昇進したばかりで、上司も複数の事業部門を統括するシニアバイスプレジデント(SVP)に昇進したばかりだった。このSVPは、このVPの部門を長年担当していたため、VPの業務に介入するのをなかなかやめられなかった。権限を委譲して半年が経っても、依然としてすべての決定に目を通し、判断を覆し、もはや自分が監督する必要のない戦術的な話し合いに首を突っ込んだ。フィードバックや助言を与えるためだと主張するが、それは「過剰な支援」であり、一見したところ無害だが、究極的には信頼や自立性やパフォーマンスを傷つけることが、研究で明らかになっている。

 あなたの上司も、企業文化のせいで、あなたに戦術的な仕事を押しつけるかもしれない。筆者は元スタートアップ(現在は上場企業だ)の経営陣をコーチしたことがあるが、この会社では、リーダーがあらゆる問題に関与する創業期の習慣が消えておらず、過度に権限を委譲したり、日々の実行よりも戦略に注力したりする人は、現場をわかっておらず、「コンサルタントのように振る舞っている」と見なされた。

パートナーシップを目指して期待を再定義する

 自分の役割に対して足を引っ張る原因がわかったら、パートナーシップを強化して、摩擦を減らす方法を探す。まずはポジティブな意図があると考えるべきだ。多くの人は、あなたの目指すリーダー像や、あなたの昇進がもたらすプラス面に関する理解がアップデートされていない。

 先述のVPは、SVPに対して、この考え方を採用することにした。そして、上司の過剰な関与は、自分の能力が乏しいと評価しているからではなく、上司自身がまだ自分のアイデンティティを再定義できておらず、VPについても、SVPについても昔の期待と許可を引きずっていると判断した。

 このダイナミクスを変えるために、VPは積極的に自分の役割を再定義し、SVPとVPの両方にとってプラスとなる共同の取り組みとして位置づけた。そして、「私がこのポジションに深く取り組むに当たり、あなたに依存しないものの、あなたに一定の役割を設けたいと思います」とSVPに告げた。「そのためには、決定権について、私たちの見解を一致させましょう。ここは私が決定権を持つべきだと思います。そしてあなたにきちんと伝える。その一方で、稀に、あなたに決定権をエスカレーションするケースもあるでしょう。それでよいですか。どこか変えたほうがよい部分はありますか」。このようにアプローチを共同で決めると、パートナーシップが生まれると同時に、より高いレベルでリーダーシップを発揮する準備ができていることを示せる。

 あなたも、昔通りの仕事のやり方を期待する同僚に対して同じようなスタンスを取ることができる。まず、「私たちの担当グループの間に、もう少し明快な線を引く余地があると思います」と伝えた上で、共同で決定する場面を明確にして、あなたが自分のチームに責任を移行させつつ、サポートを提供する距離を維持する方法を説明しよう。

 企業文化から、リーダーが直接関わることが期待されていても、あなたの戦略的な余地をつくることは可能だ。必要なら「内部で」費やす時間をつくりつつ、部門間に連携を構築したり、機能横断的な取り組みを形づくったり、会社の対外的なプレゼンスを拡大するリーダーシップを発揮するなど、よりレベルの高い活動にも力を入れよう。こうした措置は、あなたの影響力を高め、戦略的リーダーであるというアイデンティティを強化する。

早い段階から戦略的な証拠を構築する

 期待値を見直しながら、戦略的リーダーシップとはどのようなものかを示すこともできる。組織では、リーダーはその役割の範囲だけでなく、周囲から見たリーダー自身の行動によっても評価されることを覚えておくべきだ。企業レベルのニーズに貢献し、目に見える価値を生み出せば、周囲があなたとどのような働き方をすべきかを、少しずつ変えることができる。

 筆者はかつて、昇進まもない人事担当VPのコーチングをしたことがある。CEOは依然として彼女のことを、以前のポジションである戦術的な人事部長のように扱っていた。報酬額の変更、従業員同士のいざこざ、そして人事に関するいっさいの事務的な問題など、あらゆる問題がこのVPのところに回ってきた。そこでCEOの考え方を変えるために、このVPは早い段階で自分の戦略的価値を構築することに力を入れた。自分の業務報告を、仕事のリストを示すことから、リスクやチャンスにつながるトレンドについてインサイトを述べることへと切り替えた。また、CEOから質問される前に、長期的に生じうる問題を指摘した。裏では、繰り返される問題を取り除き、自分に届く戦術的な業務を減らした。また、さらに多くの権限をチームに委譲して、自分はほかの問題に対処できる余地をつくった。

 ほどなくして、CEOはこのVPを、命令されたことを実行するだけの人物ではなく、後継者育成やチームダイナミクス、長期的な人材ニーズなど戦略的な問題について自分に助言する人物として扱い始めた。このシフトが起きたのは、もっと戦略的な仕事をさせてほしいとVPが頼んだからではなく、そのような仕事ができることをみずから示したからだ。

自分の仕事のリズムを見直す

 多くの場合、リーダーが戦略面で十分な貢献ができないようにしている原因は、本人の習慣にある。同僚の期待を是正して、早い段階で戦略的勝利を収めることにより、自分の仕事のやり方のせいで戦術的な業務に引っ張り戻されるのを防ごう。

 自分のスケジュールを見て、以前のポジションの活動や情報の流れ、当事者意識を反映していないか自問しよう。上司には権限委譲して一歩引いてほしいと願うのと同様に、あなた自身もどこに時間をかけ、どの決定をチームに完全に任せるかを見直さなければならない。

 まず、チームや事務アシスタント、主要なステークホルダーとミーティングを持ち、「私が問題をより適切に予測し、皆さんの立場を代弁し、ビジネスの機会を活かすためには、私が関わる業務と、あなたたちに任せる業務を調整する必要がある」と伝えよう。その上で、自分の時間に主体性を取り戻し、相手がもっと努力するチャンスを与えられるように、仕事のリズムを有意義に変更する。

 過度に頻繁な業務上のチェックインからは手を引き、ポテンシャルの高い直属の部下に、ワンランク上の課題として出席を任せる。1on1ミーティングも、業務ではなく事業への影響に焦点を絞り、問題を持ってくる場合は、解決策の提案も持ってくるようチームに注文する。また、戦略的なことに費やす時間を毎週確保して、組織に目を配り、人材リスクの兆しといった問題を見つけ、問題が大きくなる前に部門横断的な対話を持つようにする。

 こうしたシフトは、あなたのリーダーシップの受け止められ方を変える。あなたは自分が注意を払うべきことをきちんと選ぶようになり、周囲が当然のようにあなたにアクセスするのではなく、あなたの時間を勝ち取らなければならないようにするのだ。あなたのスタンスが一貫していれば、周囲はそのスペースがあなただけのものだと認めるようになる。

リーダーシップチームの質を高める

 チームに委譲する責任を増やすことは、あなたがリーダーの地位を維持するために必要な措置だが、それで成功が確実になるわけではない。自分のリーダーシップチームを積極的に評価・育成して、複雑さを吸収し、不透明感のある中でも健全な決定を下せるようにする必要がある。リーダーシップチームのことを、単なる実行チームと見なすのではなく、未来のリーダー候補と見なす。彼らの判断力の向上が、あなたが次のレベルで活動できるかどうかを決めるのだ。

 筆者のクライアントだった、昇進まもないエンジニアリング担当SVPは、戦略的に仕事をする余地をCEOから与えられた。ところが、会社レベルの仕事に集中しようとするたびに、オペレーション上の問題に駆り出された。なぜなら、チームに任せた決定の多くが、十分に検討されていなかったり、不完全だったりしたためだ。周囲に権限を与えるだけではだめなのだと、彼はすぐに気がついた。各リーダーがどのくらい責任を引き受ける準備ができているかを評価し、そして決定の質を評価し、不透明感が高まる中でどれだけ学べるかを把握する必要があったのだ。

 そこでこのSVPはまず、リスクの予測、シナリオ立案、部門横断的な影響の認識など、強力な決定を下すための明確な基準を共有した。その上で、直属の部下たちに決定に至った理由を聞いてから、自分の見解を示すことで、リアルタイムのコーチングを行った。これは彼らの準備状況を把握しつつ、能力を伸ばすことを可能にした。自分の決定を下に押しつけるのではなく、部下たちのスキル向上に投資したおかげで、チームとしての仕事の質も自信も高まった。自分の下に強力で、頼りになるチームがあるおかげで、このSVPは真に戦略的なレベルでリーダーシップを発揮する基盤を確保することができた。

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 シニアレベルへの昇進は、リーダーとして会社の戦略に影響を与えるチャンスだが、それまでの戦術的な業務に脚を引っ張られることはよくある。本稿で示したステップをたどれば、戦略的なことに費やす余地を確保し、あなたと組織が必要とするリーダーシップを発揮することができるだろう。


"Your New Role Requires Strategic Thinking…But You're Stuck in the Weeds," HBR.org, December 16, 2025.