火曜日、私はアムステルダムで開催された「イノベーション・フロントエンド会議」に出席した。さまざまな分野の企業でイノベーションに取り組むリーダーたちと会えてよかったが、こうした参加状況は世界経済が徐々に安定し始めている証であり、小さくも重要な兆しだと思う。
私は午前中に自分の発表を行い、午後にはパトリック・オリオールダンの素晴らしいプレゼンテーションを聞いた。彼はアンハイザー・ブッシュ・インベブのイノベーション担当グローバルリーダーだ。イノベーターに役立つであろう、彼の講演のポイントは次のとおりである。
1.戦略目標をわかりやすい言葉で示す
アンハイザー・ブッシュ・インベブは世界最大のビール会社である。その戦略目標は、SOB(ビール市場におけるシェア)の向上とSOT(顧客当たりの購入飲料におけるシェア)の向上である。競合商品を愛飲している顧客を自社ブランドへ乗り換えさせたり、新たな販売拠点で自社商品の購入を促したり、あるいはまったく新規の顧客を獲得することにより、この戦略目標が達成される。単純ですぐに覚えられるようなわかりやすい言葉のおかげで、同社のイノベーションへの取り組みは非常に明確なものとなっている。大切なのは、それによって同社が取り組まないことも明確になることだ。これは見過ごされがちな点だが、イノベーションを推進する要因である。
2.イノベーション戦略の種類を明確にしている
同社の2つの基本的なイノベーション戦略について、パトリックは説明した。「リノベーション」とは、広告宣伝キャンペーンを行ったり、あるいは商品にごくわずかな修正を加えることにより、既存の商品ラインを強化すること。いっぽう「イノベーション」とは、完全に新しい商品を開発することだ。この両方が必要である、と彼は指摘する。「家の基礎が崩れているときに、増築はしないだろう」。
これについても同社の社員は、2つの戦略の違いについて苦もなく何度でも語ることができる。戦略的意図が明確であれば、イノベーションについて建設的な対話が促されることは、私の経験上からも言える。
3.イノベーションについて、自由で、しっかりとしたプロセスがある
同社ではイノベーションのプロセスを、フロントエンド(顧客発見、商品コンセプトの考案、コンセプトの検証と洗練など)と、バックエンドに分けて考えている。フロントエンドは、その「曖昧」で何度も繰り返すような性質を考慮して、固定的なステージゲート(移行条件)を設けていない。いっぽうバックエンドの方はより厳格なプロセスになっている。
4.一見気づきにくい事例から洞察を引き出す
パトリックは、アップルのiPodの進化についてスライドで説明していた。アップルは明らかに飲料業界の会社ではない。だがアップルは、製品ラインの拡張、新製品の投入、サポートサービスといったことを組み合わせたプラットフォーム戦略を追求し、それによりiPodの可能性を最大限引き出しているという点がポイントである。アンハイザー・ブッシュも同様に、飲料業界でのプラットフォームを構築しようと努力していると彼は説明した。
アンハイザー・ブッシュ・インベブでは、イノベーションへの取り組みの中心に明確なメッセージがある。これは心に留めておく価値があるだろう。
原文:Four Innovation Lessons from Anheuser-Busch February 10, 2010